「みんなスピーカーでも持ってるのか」完全アウェーの大熱狂 経験者が語る6年前の異様な空気【コラム】
立ちはだかる大観衆と雨「8万人もお客さんがいれば声は通らない」
それを実体験していた菅原は12日の練習後に「マジで懐かしいですね。6年前か。なんかいいっすね、ジャカルタって感じですね」と笑顔を見せ「僕らの時も大アウェーというか、インドネシアの圧力がすごくあったと思うんですけど、アウェーの方が僕ら選手も気持ちも上がる。ああいうアウェーの中でこそ、『俺たちは絶対に勝つんだ』という気持ちにさせられた。あの雰囲気があったからこそ、ああいう難しい試合でも勝ち切れた。インドネシアのサッカー熱はすごかったですけど、そういう熱があった方が気合いが入ると思うので、試合がすごく楽しみですね」と、しみじみと語っていた。 菅原や久保、瀬古、谷ら2000年世代は、森山佳郎監督(現ベガルタ仙台)が率いていたU-15日本代表の最初の海外遠征でもインドネシアに訪れている。「今の日本の若い世代は人工芝ピッチなど整ったグラウンドでしかプレーしたことがない。だからこそ、あえてドロドロのピッチでグチャグチャになりながら戦う経験をしないとダメなんだ」と当時、指揮官は語気を強めていたが、そうやって過酷な環境を乗り越えてきた経験は大きい。その積み重ねが、6年前のU-19インドネシア戦勝利の原動力になったと言っても過言ではない。 とはいえ、土砂降りの雨の中、大観衆の下でプレーするとなれば、試合運びの難易度は間違いなく上がる。 「8万人もお客さんがいれば声は通らない。普段からそういう状況ではやっていますけど、より細かいところですり合わせを練習からやっていく必要があると思います。うまくいかない時間帯もあるかもしれないけど、自分たちがしっかり耐えることが肝心。チーム一丸となって戦うことが大事だと思います」 6年前の経験者の1人である大迫もこう語っていたが、微妙なズレが致命傷にならないとも限らない。特に今回は谷口不在で最終ラインが変則的な構成になる。これまでの最終予選4試合とは異なる感覚でプレーせざるを得なくなるため、密なコミュニケーションが必要不可欠だろう。 それは6月のミャンマー戦(ヤンゴン)以来の先発が有力視される橋岡も重々承知している部分。2018年のインドネシア戦で最終ラインを統率し、MVP級の働きをした彼は「僕たちはずっと大観衆の浦和レッズでやっているので、そこはほかの人より慣れているんじゃないかなという気持ちもありました。途中から雨も降ってきて、少し視界が見づらくなってきたなかでも集中を切らさずにできたんじゃないかと思っています」と胸を張っていた。その記憶は本人にとっても鮮明に違いない。その再現を同じピッチで見せられれば最高のシナリオ。今回は貴重な経験値を遺憾なく発揮すべきなのだ。 インドネシアに苦戦しているようでは、2026年W杯優勝という目標には手が届かないだろう。「やっぱり日本は強かった」と現地の人々が感心するような圧倒的な強さを示し、3ポイントを獲得すること。それは今回の日本代表に課されたノルマだ。インドネシアを経験している若い久保や橋岡らが、その牽引役になってくれれば理想的である。 [著者プロフィール] 元川悦子(もとかわ・えつこ)/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。
元川悦子 / Etsuko Motokawa