「知らなかった」は免罪符? “産める性”と“産めない性”の間にある深い溝 『海のはじまり』1話
目黒蓮演じる月岡夏が、大学時代の恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀の場で、彼女の娘・南雲海(泉谷星奈)に出会う。人はいつどのように父となり、母となるのか。生方美久脚本・村瀬健プロデューサーの『silent』チームが新しく送り出す月9ドラマ『海のはじまり』(フジ系)は、親子や家族の結びつきを通して描かれる愛の物語だ。第1話では、夏と水季の出会い、そして夏が初めて目にする娘・海との触れ合いが描かれる。 【イラストで見る】ドラマ『海のはじまり』
予期せぬ妊娠と水季の言動
あらすじに目を通した瞬間から、不安だった。嫌な予感がした、と言ってもいいかもしれない。本作の公式サイトには、「水季が、自分の知らないところで、自分との間にできた子どもを生み、何も言わずにその子どもを育てていたことを知った夏は……」と書かれている。 自分の知らないところで、何も言わずに。そんなこと、あり得るのだろうか。 夏(目黒)と水季(古川)が出会ったのは、大学生のころ。1年生の食事代がタダになることを目当てに、山岳部の新入生歓迎パーティーに来ていた水季は、一周まわって魅力的に見えるほどのマイペースだ。具合が悪そうに見えた水季を心配し、声をかけてきた夏を呼び止めたはいいものの、自分の好きなように会話をし、ただ、楽しそうにしている。 二人の仲は自然と深まった。ある日いきなり、水季が人工妊娠中絶の同意書を持って、夏の前にあらわれるまでは。 水季が予期せぬ妊娠をするに至った経緯については、詳しく描写されていない。ごく普通の恋人同士が、ごく普通に避妊をしていたとしても、妊娠することはある。少し違和感を覚えてしまうのは、このあとの水季の言動だ。 頑なに同意書へのサインを夏に求める水季。「ほかの選択肢はないの?」「これしかないって決めつけてるなら、考えてから決めてほしい」と夏は言う。パートナーを妊娠させてしまった男性の言い分として、誠実さを感じる姿勢に思える。 しかし、水季は意見を曲げない。「夏くんは、おろすことも産むこともできないんだよ」「私が決めていいでしょ」と強い決意を示す水季を前に、夏は、サインをするしかなかった。 しかし水季は子どもを産み、その後、病気で亡くなってしまう。水季の葬儀の場で、夏はもうすぐ7歳になる水季の娘・海と出会い、自分こそが父親であることを知るのだ。 夏は「知らなかった」を繰り返す。水季の母であり、海の祖母にあたる南雲朱音(大竹しのぶ)に事実を知らされても、衝撃のせいか「何も知らなくて」としか言えないでいる。 この言葉こそが“産める性”と“産めない性”の間にある、深い深い溝をあらわしているように思えてならない。 産めない性である夏は、水季が出産していたことを知らなかったし、知りようがなかったし、知らないでいられたのだ。それはつまり、朱音が言ったように「妊娠も出産もしないで、父親になれちゃう」からだろう。産めない性である男性は、自分の子どもがどこかで生きているかもしれない事実を、知らないまま過ごすことができてしまう。 産める性である女性は、そうはいかない。十月十日、体内で子どもを育て、大きな苦しみをともなう出産を経験する。自分の子どもを産んだ、という事実を、知らないでいることは不可能だ。 夏は、水季から出産を知らされていなかった。水季は大学を辞め、間もなく夏に別れを告げた。「何も知らない」と夏が繰り返すのも無理はない。だって、本当に知らなかったのだから。彼は、知ろうとしなかったのだから。