愛媛で震度5強 3月の「伊予灘地震」から見えた避難の課題とは
いざというとき、車に頼った人が多数
国や各自治体は、渋滞や事故の危険性を考慮して、「原則徒歩避難」を避難計画の前提として、そのようにPRもしている。だから、「社会的に望ましい方向」で回答が出やすい事前調査では、言わば「本音」が隠される形で徒歩避難が大勢を占めたのだろう。しかし、いざ本当に地震が起こってみると、多くの人が車を利用したのだ。 地方では、車は「一家に一台」ではなく「一人に一台」の身近な乗り物だ。それ自体が貴重な家財道具(財産)でもある。高齢者、障がい者など、車を利用しないととても逃げ切れないと考えざるを得ない方々がいらっしゃるのも事実である。加えて、夜露をしのぎ、プライバシーを確保し、情報取得(カーラジオ)もできる。避難(高速での移動)以外にもいくつものメリットが車にあるために、いざというとき、ついついそれに頼ってしまう。このことを伊予灘地震は明るみに出した。
もちろん、車避難には危険が伴う。伊予灘地震の際にも、「避難開始後5分で渋滞となった」、「目標にしていた避難場所周辺が渋滞していたので別の避難場所に向かった」-こういった声があがっている。今回は揺れがそれほど激烈でなく、電柱の転倒、液状化などによる道路閉塞がなく、条件がよかったにも関わらず、渋滞は発生した。 残念ながら、車避難の問題を一刀両断できる絶対確実な正解はない。 でも、今後、筆者らも加わって、住民から「本音の避難意向」をくみ取りながら、車避難について個別具体的に考えていこうと思っている。 (矢守克也/NPO法人日本災害救援ボランティアネットワーク理事) ■矢守克也(やもり・かつや) 京都大学防災研究所巨大災害研究センター教授。同阿武山観測所教授、人と防災未来センター上級研究員などを兼務。博士(人間科学)。専門は防災心理学。著書に「巨大災害のリスク・コミュニケーション」など。開発した防災教材や訓練手法に「クロスロード」、「個別避難訓練タイムトライアル」など。