臨時の運転が招いた異変 静岡・牧之原市の園児バス置き去り死、真相は 23日初公判
前園長に二つの注意義務 担任は所在確認「軽率」 -起訴状の指摘
静岡地検は事件から約1年2カ月後の2023年11月24日、増田被告と西原被告を業務上過失致死の罪で在宅起訴した。地検は「園児を置き去りにした者の過失、置き去りにされた園児を結果的にそのまま長時間放置してしまった過失の両側面で検討した結果、2人の過失が重大と認められた」と説明した。 起訴状は増田被告に①送迎バスを運行する際の園児の安全に関する計画を策定し、運転手や乗務員を指導する管理者としての注意義務②乗務員とともに自らもバスに乗せた園児全員を確実に降車させる運転者としての注意義務、の両方があったと指摘。増田被告はいずれの注意義務も果たすことなく、千奈ちゃんをバスに取り残したとした。 西原被告についてはまず、千奈ちゃんが事件当日もバスで登園予定で、これまで事前の連絡なしに欠席や遅刻をしたことがなかった点に言及。クラス担任として速やかに保護者に連絡を取るなどして所在を確認する注意義務を怠り、千奈ちゃんが事前の連絡なしに遅刻や欠席をしたと軽率に信じた―とした。一方で地検は両被告とともに業務上過失致死容疑で書類送検されていた乗務員と副担任について、「起訴に足りる十分な証拠がないと判断した」として不起訴処分とした。 保育の安全管理に詳しい元検事の岩月泰頼弁護士(47)は「預かった園児を炎天下のバスに乗せているのだから、国の通知や判例を見ても降ろす時の点呼や人数確認などの注意義務があることは否定しがたい」と指摘する。事件の約1年前の21年7月には福岡県中間市で5歳の保育園児が送迎バス内で死亡する同様の置き去り事件があり、国が再発防止を全国の保育事業者らに求めていた。なおさら車内を確かめる注意義務は「重かった」という。バスの送迎に直接関わっていない西原被告の起訴も「行政からの注意喚起もある中で、同様の事件が繰り返されたことを重くみた地検の判断があったのではないか」と分析する。
「対策にしすぎはない」 -安全装置設置義務化1年
牧之原市の送迎バス園児置き去り事件を機に、国は全国の幼稚園やこども園などの送迎バスに置き去りを防ぐ安全装置の設置を義務化し、子どもの安全管理に対する市民の関心も高まった。保育現場の従事者らは社会に大きな影響を与えた事件の裁判の行方を複雑な思いで見守る。 「正直、あまり見たくはない。自分の園で起こりうることでもある」。県西部で幼稚園を運営する理事長は、23日の初公判について複雑な心境を明かした。事件以降、職員は園児のバスの乗り降りなど一つ一つの確認作業をより慎重に行う意識が高まったという。園児の出欠管理にアプリは使わず、保護者からの電話連絡で情報を把握する。「アプリは便利ではあるが『任せとけばいいや』という雰囲気になるのが怖い。アナログな方法でうまくいっているので、それを徹底するだけ」と話す。 安全装置は今年4月で設置義務化から1年が経過した。南八幡幼稚園(静岡市駿河区)は園児39人乗りの送迎バスに、エンジン停止後4分以内に座席最後方のボタンを押さなければハザードランプが点灯し、クラクションが鳴る仕組みの装置を導入した。運転手を約20年務める浦田雅人さん(67)は「安全を強化する意味で装置はいいことだが、降車後は必ず忘れ物を確認し、車内を掃除している」と話す。「事件が起きるまでは置き去りなど1%も考えたことがなかった」と松本幸真園長(42)。「対策にしすぎはない」と、園内でも出欠確認の回数を増やしたという。 一方で置き去りは牧之原市の事件の他にも、2022年11月には大阪府、23年9月には岡山県で、いずれも保育施設に通う2歳児が保護者らの乗用車で熱中症で死亡する事件が起きている。国や県は送迎バスの有無にかかわらず、連絡なく登園していない園児については保護者への速やかな確認と情報共有を徹底するよう周知した。保育従事者からは現場に負担を求めることに疑問の声もある。 藤枝、島田市で小規模保育園を運営する谷中宏章さん(42)は「事件が起きる度に『自分の園はこれで本当に大丈夫か』と思ってしまう」と話す。出欠管理アプリの運用に加え、欠席やお迎えの時間変更などの場合は電話連絡もするよう保護者に協力を依頼。一定の時間になっても登園しない園児の保護者にはつながるまで電話をかけているという。「小規模園ならではのやり方で安全管理を徹底していきたい」と語る。