サイゼリヤのパスタが絶好調、「値上げしない宣言」からの営業黒字を実現した意外な理由とは
飲食店で1回当たりに使う金額が変化
そして、同月における100世帯当たりの月間利用頻度を見ると、食事を行う頻度そのものが1割上がっており、洋食レストランの利用頻度は7.4%増加していることがわかる。 この結果から、サイゼリヤの客数が増加した理由を推察することができる。そして下の表が、1世帯当たりが1回当たりの食事で支出した金額を独自に割り出したものだ。 パスタなどの「他の麺類外食」は、7.4%も上昇している。洋食は5.4%下がっているが、ピザなどの「他の主食的外食」は3.9%上昇した。サイゼリヤが得意とする、「他の麺類外食」「洋食」「他の主食的外食」を合わせると、1.5%増加している。これらの要素を総合すると、消費者はインフレにある程度慣れ、飲食店で1回当たりに使う金額が変化したと推測できる。 さらにリベンジ消費が影響しているだろうが、利用頻度も上がっているのだ。 サイゼリヤは値上げをしないと宣言したことにより、消費者ブランド選好度が高まって集客に成功。消費者意識が変化したことによって客単価も上がるという、好サイクルの恩恵を受けた可能性が高い。
値下げで集客力向上を狙うガスト
インフレのさなかで値下げを行ったのが「すかいらーく」だ。同社は2022年に2度の値上げを実施したが、2023年11月に価格改定でガストの主力メニューの一つである「チーズINハンバーグ」を50円値下げするなど、30品目の見直しを行った。 ガストを運営するすかいらーくは2022年12月期に55億7500万円の営業損失を出すなど、コロナ禍から完全回復しきれていなかったが、2023年1-6月に営業黒字化を実現した。収益性の回復は、値上げによる客単価上昇の影響が大きい。 2023年は2019年と比較して、客単価は1.2倍に上昇している。仮に2019年の客単価が800円だったと仮定しよう。そうすると、2023年は970円まで上がったことになる。 すかいらーくは2022年7月、10月に一部店舗で5%程度の値上げを実施しているが、2022年の客単価の伸びは限定的だ。値上げ効果がフルで寄与した2023年の数字がそのおかげで高くなっているのは間違いないが、2022年比で1割近く上昇している。 すかいらーくもサイゼリヤ同様、消費者意識の変化の好影響を受けている可能性がある。そこで、値下げで集客力を高めようと考えたのだろう。 値下げを行ったことで、2023年11月、12月の客数は前年同月比で12.6%それぞれ増加している。10月の客数は9.9%の増加だった。稼ぎ時の年末に効果は出ているように見える。気になるのは、インフレ下においても、大手ファミリーレストランが低価格を集客フックにしている点だ。消費者が財布のひもを緩めはじめているのは間違いなく、多少高くても質の高いものを求めている姿が浮かび上がっている。 中長期的に収益性を高めるためには、高単価のメニューを追加するなど、消費動向をとらえた店舗運営、メニュー開発が必要になるかもしれない。 取材・文/不破聡