『きみの色』の前に立ち塞がった「オリジナル作品でヒット」の高い壁
9月第1週の動員ランキングは、『ラストマイル』が2週連続1位。週末3日間の動員は46万8000人、興収は6億3900万円。公開から10日間の動員は152万7500人、興収は21億5500万円。配給の東宝が目標値として掲げていた「興収50億円」に向けて、順調なペースで数字を積み上げている。 【写真】『きみの色』場面カット(複数あり) 2位は公開5週目の『インサイド・ヘッド2』。週末3日間の動員は22万7000人、興収は2億8300万円。公開から32日間の動員は340万4000人、興収は43億4800万円。『キングダム 大将軍の帰還』と並んで今年の「夏休み映画の覇者」となった同作については、本連載でも一度どこかで総括する予定だが、とりあえず現時点で既に前作『インサイド・ヘッド』の興収40.4億円を大きく超えている。 というわけで、気がつけばもう9月だが、東宝には2016年8月26日に公開した新海誠監督の『君の名は。』が夏休みの最後に空前の大ヒットを記録して以降、ゲンを担いでというわけではないだろうが、8月の最終週に同社が長編作品で初めて起用するアニメーション作家の新作を公開するという流れがある(毎年ではないが)。今年その「枠」で公開されたのが、山田尚子監督の『きみの色』だ。 『きみの色』のオープニング3日間の動員は6万8700人、興収は9800万円。オープニング興収が1億円にも届かず、初登場7位と非常に厳しい出足となった。2011年公開の『映画けいおん!』で初の長編映画監督を務めてからも数々の作品に演出や絵コンテに参加してきた山田尚子だが、長編監督作品は2018年の『リズと青い鳥』以来、実に6年ぶり。2019年にそれまで所属していた京都アニメーションを離れてからは、これが初めての長編監督作品となる。 山田尚子の長編作品で最大のヒットを記録したのは2016年公開の『映画 聲の形』で、同作の最終興収は23億円。今回、これまでの松竹から東宝へと配給会社が変わったことで、周囲からはそれ以上のヒットが期待されていたのだろうが、この初動成績ではその可能性はない。もっとも、これまでの監督作品は、ヒットしたテレビアニメの映画化からそこまで知名度が高いわけではない原作までそのバリエーションに幅はあったものの、いずれも原作が存在していて、完全なオリジナル作品は今回が初めて。少なくとも今作に関しては、そのことは「ストーリーそのものの弱さ」に直結してしまっている(作り手側はこういう作品を目指していたのだろうから、あくまでも公開規模との齟齬ということになるが)。また、これはアニメーション作品だけでなく実写作品にも言えることだが、改めて、現在の日本の映画興行においてオリジナル作品でヒットを飛ばすことの難しさも突きつけられたかたちだ。
宇野維正