消える「おつかい」もう不要?◆ジレンマ抱える親、専門家が明かす効果とは【時事ドットコム取材班】#令和の親#令和の子
◇初チャレンジに満面の笑み
ただ、おつかいを通じて「社会に出るための練習をしてほしい」と期待する保護者は多いようで、子どもが一人で安全におつかいができる体験を提供する企業もある。映像制作事業などを手掛ける「WAGAKOTO」(東京都品川区)が運営する「はじめてちゃれんじ」は、スタッフがおつかいの様子を見守り、動画撮影をする有料サービス。申し込み人数は23年春以降伸びており、24年に入ってからは月100人を超えている。 3月下旬、東京都足立区の歩行者天国の商店街で行われた「はじめてちゃれんじ」の様子を取材した。30代の両親が4歳の息子に頼んだのは、約150メートル離れた店でドーナツを3個買ってくること。手を振って出発した男の子は、緊張した表情を浮かべ、人混みを歩いて行った。通行人を装ったスタッフ3人が、気付かれないようにつかず離れずの距離で動画を撮影しながら、危ない場面がないか見守った。男の子は途中で小走りになりつつも、無事店に到着し「ドーナツください」と店員に注文。店頭でお金を落としてしまう一幕もあったが、見守りスタッフが声を掛け、財布に入れるのを手伝った。ドーナツの入った袋を受け取って戻り、10分ほどで体験は終わった。 両親に袋を渡し「よくできたね!」と褒められると、男の子は満面の笑みで「楽しかった。次は野菜を買いに行ってみたい」。父親は「親が見ていないところで子どもは成長すると思うので、一度体験させてみたかった。普段は甘えん坊なので心配していたが、一人で行動し自信が付いたと思う」と語った。今回撮影した動画は編集後、家族の元に届けられるという。 ◇体験する意味は? 取材を通して見えてきたのは、手伝いとしてのおつかいのニーズが薄れる中、社会経験として体験させたい気持ちはありながらも、子どもの一人歩きには不安を感じているという親のジレンマだ。「おつかい体験は子どもの成長にどんな影響を与えるのだろう」。そう思い、長年子育て支援に携わる恵泉女学園大学長の大日向雅美氏に話を聞きに行った。 大日向氏によると、子どもが得られるメリットは2つ。家族以外の人と触れ合い、褒められることで他者から見守られているという安心感を得ること、親の頼みをこなし役に立てたという「自己有用感」を感じられること―だ。 しかし、ここ数十年で買い物環境は激変しており、住民と店員が顔の見える関係を築けたかつての商店街は消え、大型スーパーやコンビニが主流となった。大日向氏は「おつかいを通してこうしたメリットを得るのは難しい社会になった。ただ、それに代わるものがないわけではなく、例えばファミリーレストランでの注文を子どもにやってもらうといったことでも、体験の代替はできるのではないか」と提案する。 必要性は減っても、おつかいを体験させる意義はあるのか。そう問い掛けると、「物の値段を知ったり、手持ちのお金の範囲で欲しい物を選んだりする勉強の場だと捉えれば、そうした機会をつくる意味は大きい。キャッシュレス決済は、現金がなくても買えるので買い過ぎてしまうリスクがある。商品の対価としてこれくらいの現金が必要なんだという感覚は育んであげたい」と大日向氏。「親といつも一緒に行っている慣れたお店や、定期的に開催するイベントマーケットなどで楽しみながら体験させてみるといいかもしれませんね」と語った。 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。