小笠原返還50年「船以外に交通手段ない」空港建設なぜ難航?
高速船は赤字見込まれ計画中止
航空機ではないが、2001年ごろから国策として開発された高速船「テクノスーパーライナー(TSL)」での東京~父島間の就航も検討された。小笠原までを約16時間で結ぶという触れ込みで、東京までの定期船を担っている小笠原海運が運航し、都が経済的に支援する予定だった。しかし、世界的な原油価格の値上がりによって毎年20億円以上 もの赤字が発生することが見込まれたため、都は支援の限度を超えると判断。2005年10月、定期就航することなく計画は中止された。 空港計画はその後、「洲崎地区」活用案、「硫黄島」活用案、「水上航空機」案、「聟島(むこじま)」案の4案が浮上した。 洲崎案は、父島の中でも国立公園や世界遺産の区域外にある洲崎地区に飛行場を整備する案。滑走路長1200メートル規模、定員50人程度のプロペラ機の就航を想定する。 硫黄島案は、東京都心と硫黄島をジェット機で結び、硫黄島と父島をヘリコプターで結ぶ案だが、都は火山活動の影響で硫黄島への居住が困難な点などの課題があるとしている。 水上航空機案は、二見湾内か湾外に設置した水上空港と東京都心を水上飛行艇で結ぶ案だが、船舶の航路との兼ね合いや波の影響で就航が難しいと見られている。 聟島案は2009年11月、アホウドリなど希少種の生育環境への影響が懸念されたほか、空港計画用地が自然公園法の特別保護地区に指定されたため、候補から除外された。 このため結局、都は洲崎地区活用案を中心に検討を進めるとしている。
「自然の宝庫」悪影響に懸念
難航する空港建設。森下村長は、構想が動き出すには、「小笠原の財産である豊かで貴重な自然を大きく改変することなく、飛行場が作れるかどうかもカギ」だと語る。 小笠原諸島は動植物が独自の進化を遂げ、原生的な森や山が残る自然の宝庫。「東洋のガラパゴス」とも称され、2011年には「世界自然遺産」に登録された。しかし、空港建設にはこうした豊かな自然への悪影響が懸念されてきた。 村長はこう課題に言及する。「航空法にのっとって、東京~小笠原間を安全に航行できる飛行機としてはジェット機が考えられる。そのためには1800~2000メートルの滑走路が必要だが、小笠原は自然公園法の保護地域や世界自然遺産区域との兼ね合いで、長い滑走路はつくれない。短い滑走路でも離着陸でき、東京・小笠原間を安全に航行できる飛行機をどう選ぶのか、という難題があるため、なかなか航空路の開設に至らない」 島しょ部の振興を掲げる東京都の小池百合子知事は、6月30日に小笠原諸島の父島で開かれる返還50周年の記念式典に出席することになっている。6月15日の定例会見では「50周年記念(式典)で何らかのことを皆さんにお伝えできるよう、しっかり詰めていきたい」と含みを持たせた。森下村長は「難しい課題もあるが、空港整備に向けて前向きな姿勢が村民に伝わるような発言を」と期待している。 (取材・文:具志堅浩二)