あの「不思議な存在」は何なのか…『からかい上手の高木さん』を見て思い出した、意味不明の気配で近づいてくる「クラスの女子」
うだつのあがらない野球部員
ビッグコミックスピリッツに連載されていた『星野くん、したがって!』(オジロマコト/原作ほしのディスコ)である。 こちらも中学が舞台。 星野くんは野球部員だ。あまりうだつがあがらない。「補欠にも入れない雑用係」である。最近転校してきた美少女の山田さんと知り合いになる。山田さんは星野くんをからかう。こちらはあきらかに星野くんには好意を持ってなさそうだ。 ただ星野くんをからかっている。転校生だからか、クラスにも友人が少なさそうで、ときどき好意があるのかもしれないと勘違いさせるようなことはある。 大学生にこの漫画を見せたら、ギャグがあまり笑えなかったというのが感想のすべてだった。いや、中学とか高校のとき、こんな意味不明のことをやってくるちょっと可愛い子っていなかったかと聞いたら、ぼく男子校なんでいませんでしたと言って、関東は男女別学がけっこう多くて話が進まない。 それとは別に、最近「職場の同期の女子にからまれてどうしたらいいかわかりません」と後輩から相談された。働き出して4年で27歳。高校時代は野球部でいかにも野球部出身という風貌と性格である。漫画の星野くんに少し似てなくもない。近くの席の女性が、仕事でもオフでもからんできて、どう扱っていいのかわからないという。 そもそも彼女には彼氏がいるし、彼氏の相談も受けるし、でも自宅の部屋に入ってこようとするし、自分に気がないわけでもなさそうだし、いったいどうすればいいんでしょうと言うのである。 そういう女性は、気まぐれな自然そのもののようなものなので、こちらの力でどうしようもないから、と言って、この『星野くん、したがって』の本を渡したのであった。
めちゃくちゃな頼み
もともと野球部だった彼はいたく共感していた。 まあ、災害とはいわないが、猛威をふるう自然そのもののような女性の出現は、こちらから何か影響を与えようとしても無駄なので、ひたすら念仏を唱えて通り過ぎるのを待つしかないのだよ、と話したら、いたく納得していた。 『星野くん、したがって!』の山田さんは、星野くんの反応を見切って、自由に振る舞う。 彼女は吹奏楽部にいて、星野くんのいる野球部が県大会で勝ち進み、あと1つ勝つと全国大会に出られるという状況になったとき、星野くんを呼び出して、煙草のマルボロを一箱渡す。とまどう星野くんに「吸って欲しいの」と言いだす。野球部が全国大会に出場したら吹奏楽部もついていかねばならず、そうなると夏休みが野球の大会でつぶれてしまう。 「わたし、夏休みは遊びたいぃー」と叫んで、だから星野くん、煙草吸ってくださいと言う。それで出場停止になってくれればいいのとすごい頼みで、なんで僕なのって聞くと、将来にも影響するので有望な野球部員には頼めない、その点、星野くんはスポーツ全般だめ、勉強もだめだめ、ダメ人間でもかわいげがあるかといえば、それもない、中学でタバコを吸ったところで、未来には大差ないので問題なし、だからタバコ吸ってと頼んでくるのだ。めちゃくちゃである。星野くんはその場では怒るが、でも美少女の山田さんのことは気になっているのでそのうち許してしまう。 このとおりのことをする女子はあまりいないだろうけど、でも、似たようなことを言ったり、よくわからない絡みをしてくる女子はいる。いつもいる。弥生時代からいて令和になってもいるはずだ。 運動にかまけて女の子に疎い全国の男子に読んでもらいたいところだが、だいたい山田さんにリアルを感じられずに、ぜんたいつまらない、という反応がせきの山だろう。 でもどこかにこんな女子はほんとうにいる、とおもって『星野くん、したがって!』を読んでもらいたい。 ドラマ『からかい上手の高木さん』は全世代におすすめである。
堀井 憲一郎(コラムニスト)