医師説明、動画で代替 福島医大 年100件の前立腺がん摘出手術に活用
福島医大医学部泌尿器科学講座は本年度内にも、同大付属病院で手術支援ロボット「ダビンチ」を使用した前立腺がん摘出手術を受ける患者のインフォームドコンセント(医師の十分な説明と患者の同意)にオリジナルの動画を導入する方針を固めた。通常、医師が対面で行う説明をビデオで代替する。患者により分かりやすい情報提供を行うとともに、長時間労働が課題となっている医師の働き方改革への効果も期待される。 医大がインフォームドコンセントを動画で代替するのは初めて。前立腺がんは男性に発生するがんの中で最も頻度が高く、特に50代以上に多くみられる病気だ。同講座では手術を年間100件程度行っている。インフォームドコンセントは手術ごとに必要な手続きで患者1人当たり1時間程度かけて実施している。 医師の働き方を巡っては、昨年4月に医師の時間外労働(残業)の上限規制が撤廃されている。医大は臨床に加え、学術的な業務も多い。同講座の医師が「臨床以外に(時間の)余裕のない中で働いていることは事実」と明かすように、たとえ1時間でも勤務時間を短縮できれば負担は軽減される。医学発展のための研究や教育、自己研さんなどに充てる時間を確保できる。 動画は約40分で、病気の説明、手術の流れ、合併症のリスク、ほかの治療法との比較で構成。例えば手術の説明では、腹部の複数箇所を切開した上で、筒状の医療器具を入れ、手術支援ロボットに接続するといった手順をイラストと音声で表現した。 これまでの医師の説明は専門用語を含む文書が中心で、視覚的に説明することが難しかった。また、担当する医師によって説明内容に差が生じることがあったといい、動画の導入によって説明の均一化が図られる。同講座の丹治亮助手は「(対面説明と比べても)良いものはできた。質は落とさずに業務の効率につながれば」と期待する。 今回は、動画を中心とした説明で患者の手術への理解度が高まるかどうかも検証する。対面で説明を受けた患者と動画を視聴したそれぞれの患者の満足度や理解度、不安度などを比較し、有用性が確認されればほかの手術への展開や県内のほかの病院での活用も見据えている。
「働き方改革の一歩」
動画開発を巡っては、県内企業の技術的支援もあった。動画の肝になる音声は、県を通じて医大から要請を受けたいわき市の品川通信計装が担当。医大の要望を基に、既製品の音声アプリを提案した。医大が作成した文章を同社が入力し、声の質や話す速度、抑揚などを設定した。 同社の担当者は「医師の働き方改革の改善の第一歩につながればうれしいし、(ビデオを)応用できる症例が増えることにも大きく期待したい」とした。
福島民友新聞社