『虎に翼』の核となる尾野真千子の“語り” 伊藤沙莉の演技をさらに際立たせる秀逸な声色
NHK連続テレビ小説『虎に翼』第2週「女三人寄ればかしましい?」が放送された。邁進する寅子の逞しさと、演じる伊藤沙莉の愛嬌あふれる芝居が魅力的な本作において、さらに視聴者を虜にしたのが尾野真千子の「語り」の力だろう。 【写真】「にゃにゃにゃにゃ!」とネコの引っ掻くマネをする伊藤沙莉 連続ドラマのスタート時には状況を視聴者に分かりやすく伝えるため、あえてナレーションを多めに入れることがある。かつて伊藤沙莉がナレーションを務めたドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)もそうだが、今回の朝ドラ『虎に翼』の第1週もまさにその傾向にあったように思う。加えて尾野があてる特徴的なナレーションは多くの視聴者の心を揺さぶっている。 実は尾野自身も朝ドラの主演を務めたことがあり、まさに伊藤にとっては朝ドラヒロインの“大先輩”に当たる。この時、尾野が小原糸子役を演じた『カーネーション』は、「第49回ギャラクシー賞」でテレビ部門の大賞を筆頭に様々な賞を受賞。尾野自身も「国際ドラマフェスティバル in TOKYO 東京ドラマアウォード2012」の主演女優賞、「第21回橋田賞」の新人賞を受賞するなどして非常に高い評価を得た。 そんな尾野のナレーションはストーリーの補足に留まらず、時に寅子が感じる怒りや疑問、モヤモヤとした感情を一人称の立ち位置から力強く代弁しており、強い臨場感を持つ。第2話において女性たちがすまして過ごしている姿に寅子がモヤモヤすれば「スンッ。スンッ」という効果音のような声が。また、大学の夜間部に弁当を届けに行ってバッタリ穂高(小林薫)に出くわした際には「これは……、多分、偉い感じの人だ。それで、偉い感じの人に怒られるやつだ!」という寅子の焦りの心情がナレーションにあてられた。
尾野真千子のナレーションとテロップの相性が最高!
面白いのは、ここでのナレーションがあくまで現代の表現で語られているということ。言葉の数々は寅子の心の声でありながら、我々視聴者の心の声でもあるかのようだ。寅子と視聴者の感情が程よく溶け合う境界線の曖昧な存在は、強い共感性を持たせつつ作品を盛り上げている。また、「女性は無能力者?」という尾野のナレーションの場面では同時に縦書きの〈無能力者?〉というテロップが入ることで、幾分のユーモアとチクリとした痛みが視聴者の胸に届けられた。 他にも第4話で花江(森田望智)と直道(上川周作)の結婚式がとり行われた際に、寅子は母親のはる(石田ゆり子)から結婚をごり押しされた後に、半ば強引に歌を歌わされるはめになる。「うちのパパとうちのママと~♪」と歌う姿に「何で女だけニコニコ、こんな周りの顔色うかがって生きなきゃいけないんだ? 何でこんなに面倒なんだ? 何でみんなスンッとしてるんだ!? 何でなんだ!?」と重なるナレーションの秀逸さは、寅子が感じる理不尽のすべてを代弁するかのよう。このときの、怒りと笑顔の同居した泣き笑いのような寅子の表情に思わず胸を締め付けられた。 こうした独特の演出は、ナレーションの面白さと合わせて『虎に翼』の核ともいえる部分を端的に印象づけることに成功している。尾野のナレーションは、伊藤の素晴らしい演技や顔芸の数々とマッチしていることや、テロップのユニークさとの相性も良く、本作がいかに細部までこだわって作品を作っているのかが伺えた。 早くも期待が集まる『虎に翼』。寅子の活躍はもちろん、この後の尾野のユニークなナレーションにも注目しながら見守りたい。
Nana Numoto