レッドブル、前年マシンの”改良・軽量版”でシーズンを席巻。ウイリアムズFW14Bの存在意義に似ている?【2023年F1キーワード】
2023年のF1は、もう言わずもがなではあるが、レッドブルとマックス・フェルスタッペンが圧倒的な強さを見せてシーズンを席巻した。 【ギャラリー】これが鬼才の仕事。エイドリアン・ニューウェイ作のベスト10マシン レッドブルは2023年、22戦21勝。1988年のマクラーレン・ホンダが記録した16戦15勝に次ぐ、シーズン1敗という成績である。勝率でみれば、23年のレッドブルはシーズン最高勝率更新。ついにマクラーレンの金字塔が35年を経て打ち破られた。 この記録を更新するのは、そう簡単ではないはずだ……と言いたいところだが、もしかしたら、来年すぐに更新されることだってあるかもしれない。フェルスタッペンは2022年に、年間の最多勝新記録を”15勝”に更新。その翌年の23年には19勝を挙げ、あっさりと最多勝記録を更新……それを考えれば、22戦21勝を超える可能性は、ないとはとても言い切れない。 さてこの23年のレッドブルの強さは、RB19という圧倒的に強く速いマシンがあったからこそ成し遂げられたものだ。その強さは、前述の1988年のマクラーレン、MP4/4と並べて語られることが多い。いずれも、”ホンダ製エンジン”を搭載しているという共通点もある。 しかし実は、1992年のウイリアムズFW14Bの状況と似たようなところがあるのではないかと思われる。 ウイリアムズFW14Bは、ナイジェル・マンセルに悲願のチャンピオンタイトルをもたらしたマシンとして知られる。アクティブサスペンションやトラクションコントロールなどのハイテク装備で武装。アイルトン・セナ擁するマクラーレン、若きミハエル・シューマッハーが乗るベネトン、天才ジャン・アレジが孤軍奮闘するフェラーリなどを蹴散らし、開幕から連戦連勝。8月の第11戦ハンガリーGPでマンセルが同年のチャンピオン獲得を決めてしまった。 なぜこのウイリアムズFW14BがレッドブルRB19と状況が似ているかと言えば、それは前年マシンの”正常進化版”であるということだ。 ウイリアムズは1991年シーズンにFW14を投入。エアロダイナミクスを重視した、トータルバランスを考慮したマシンであった。当初はパドルでギヤチェンジを行なうセミ・オートマチック・ギヤボックスにトラブルが多発するなどしたが、熟成が進むとセナとマクラーレンを苦しめた。 このFW14を正常進化させたのがFW14Bであった。FW14Bは、そのエアロダイナミクスを最大限に活かすためのアクティブサスペンションを搭載していた。さらにトラクションコントロールなどといったハイテクデバイス山盛り。開幕5連勝含む10勝を挙げた。今でも、歴代最強マシンの1台に数えられる1台である。 ウイリアムズはそもそもシーズン中にFW15を投入する予定だったが、FW14Bがあまりにも強すぎたため、使用を継続。FW15はFW15Cとして1993年投入となった。 2023年のレッドブルRB19も、チームは「ほとんどがRB18の流用」だったと明かしている。チーム代表のクリスチャン・ホーナー曰く、「RB19はRB18から流用したコンポーネントが多数あったということだ。ギヤボックス、サスペンションの大部分、そしてシャシーの半分ほどだ。今年のマシンは、事実上切って貼ったようなモノだった」のだという。FW14→FW14Bという流れによく似ている。 そして最大の改良点は、アクティブサスペンションの採用……ではなく、マシンを軽量化できたことだという。軽くできたのは約20kg。2022年からF1はレギュレーションが大きく変更され、グラウンド・エフェクトカーとなった。それに伴い各チームはニューマシンを投入したが、最低重量よりもはるかに重い車両が多かった。レッドブルはそれを軽量化したことで、圧倒的なパフォーマンスを発揮したわけだ。 そしてその圧倒的なパフォーマンスゆえ、レッドブルはシーズン早々にアップデートを終了。そのため、シーズン後半を見ると、フェラーリやマクラーレン、メルセデスといったマシンにパフォーマンスの面では詰められている。 ただこの間レッドブルは、2024年用マシンの開発にリソースをシフト。新シーズンに向け、他チームより一歩先に踏み出している可能性が高い。この流れも、FW14B→FW15Cの流れに似ているように思える。 2024年シーズン、レッドブルはまたも圧倒的な強さを発揮することになるのか? あるいは、他のチームが追い上げるのか……開幕まであと2ヵ月半である。
田中 健一