「こんなんさせられてんねん」職員に書類を改ざんさせる兵庫県の高級老人ホーム。過剰なPRのウラに隠された実態とは?
ノンフィクションライター・甚野博則氏による『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。入居金が数億を超える「終の棲家」を取材し富裕層の聖域に踏み込んだ本書では、これまで分厚いベールに包まれてきた富裕層の老後が描かれている。本記事では、書籍の出版を記念して内容の一部を抜粋し再編集してお届けする。 ● 「ここは人が少ないわね」 兵庫県芦屋市は古くからセレブが多く住む街として知られている。この街の高台に建つのが、関西のセレブをターゲットにした高級老人ホーム「真理の丘」(仮称)である。 だが――。真理の丘元スタッフの小泉陽子さん(仮名)は、当時のことをこう回想する。 「『ここは人が少ないわね』って入居者さんに言われたこともあります。ただでさえ介護士が足りないのに、時間を厳守するようよく言われます。例えばお風呂。早めにお風呂に入れるんやったら入れてあげたほうがええのに、それだと人間の生活リズムがおかしくなるって上層部は言うんです。だから入浴介助の時間が集中して、めちゃくちゃ忙しくなってくるんです」 真理の丘の問題点は、融通の利かない生活リズムだけではない。小泉さんは続ける。 「あるとき、人を増やさないのかと上司に聞いてみると、『数字上は合ってるの!』と言い返されたことがありました」 “数字上は合っている”とは、介護保険法で定められた介護職員の人員配置基準を満たしていることを意味するという。 真理の丘では、介護保険法で定められた、入居者3名に対して介護職員1名が付くという基準を上回り、入居者2名に対して介護職員1名という手厚い体制をアピールしていた。 ところが、実際には基準を満たすどころか、帳尻を合わせただけの“偽装工作”をしていると小泉さんは説明する。 「私の上司が、『こんなんさせられてんねん』とぼやいていたことがありました。近く行政の監査が入るために、昔のシフト表を書き換える作業をしていたのです。 書類上の人数を増やして人員配置基準を満たしてるとウソの書類を作っていたんですね。真理の丘は、表面だけよく見せようとして、中身は空っぽです。入居者のご家族にも、施設の実態を気付かれないようにしているんです」 実は、介護職員の人員配置基準の数をごまかしている施設は他にも例がある。以前取材をした別の施設では、清掃スタッフを介護職員としてカウントしており、書類上の帳尻を合わせることを日常的に行っていた。 行政の監査といっても書類にしか目を通さない場合が多いため、容易に数字をごまかせるという。内部告発でもなければ行政は不正に気付けないのが実態だ。