ともしび消える吹奏楽の甲子園「普門館」…建て替え存続なぜ叶わなかった?
普門館建設中にあった用途地域見直し
法律の壁により建て直しを阻まれた普門館ですが、それではそもそも、なぜ建てることができたのでしょうか? その理由にも、先述した用途地域が関係しています。 普門館の建築確認を申請した当時、同エリアは準工業地域でした。準工業地域ならば、普門館のようなホールは建築可能です。そこで建築の許可がおりましたが、建設中に用途の見直しがおこなわれました。 「普門館の周辺は、70年前後から急速に宅地化していました。そのため、普門館が竣工したときには、すでに第1種中高層住居専用地域に用途地域が変更されていたのです。その後、同エリアは第1種中高層住居専用地域のままになっています。用地地域を決定しているのは東京都で、杉並区には用途地域を決める権限がないのです」と杉並区都市整備部都市計画課担当者は経緯を説明します。 用途地域のみならず防火や耐震基準などが変更されることはたびたびあります。それらが変更されると、基準を満たしていない建物が必ず出てきます。しかし、基準を変更するたびに建築物を建て替えるわけにはいきません。 そうした事情に鑑み、後からできた法律や基準に適合しない建築物でも、そのまま使用することは可能です。こうした建築物は、「既存不適格建築物」と呼ばれます。普門館も、既存不適格建築物だったのです。不適格建築物は、建て直しや大規模改修の際には、規制や基準に則った形にしなければならないのです。
特例的に残されたケースも
ただし、既存不適格建築物でも例外的に残されているケースはあります。 都内の建物で一例を挙げれば、大正期に建設された木造の国立駅舎(国立市)があります。現在、移築のために保存されていますが、駅舎は防火基準を満たしていませんでした。そのため、国立駅舎は文化財指定を受けています。文化財指定を受けたことで、ほぼそのまま移築・保存することが可能になりました。 しかし、普門館については「文化財指定や条例などを制定して、特例的に残そうという声は区民から出ませんでした」(杉並区都市整備部都市計画課)と言います。 昨今、都や近隣県ではハコモノ不足が深刻化し、音楽イベントや演劇の公演などができない状況に直面しています。そうした事情が勘案された様子もありません。 「普門館は都心に近く、また地下鉄の駅からもアクセスがよいので会員以外の方でも利用しやすい環境にあります。弊会では普門館と同規模のホールが建設できる敷地を青梅に所有しています。しかし、プロジェクトチーム内から『青梅に普門館の代替となる音楽ホールをつくろう』という提案は出ませんでした。青梅だと交通の便が悪く、需要がないと判断したのでしょう」(立正佼成会渉外広報担当者) 都内の会場不足が深刻化する中で、多くの人に親しまれてきた普門館のような大型ホールが消えてしまうことは、吹奏楽関係者のみならず都民にとっても大きな損失と言えるのかもしれません。 小川裕夫=フリーランスライター