サッカー日本代表の3バックは「ただ選手を入れ替えているだけ」ゲームプランの解像度に疑問【スペイン人指導者の分析】
サッカー日本代表が6月に戦ったFIFAワールドカップ26アジア2次予選ラスト2試合を、欧州最高位の指導者ライセンスを持つアレックス・ラレアが分析した。最終予選に向けて3バックという新たなオプションを試した日本代表だったが、アレックスの目には「ただ選手を入れ替えているだけ」と映る。(取材・文:川原宏樹) 【動画】サッカー日本代表、最新のゴールがこれだ!
⚫︎「史上最高のメンバー」それが今の日本代表 9月からFIFAワールドカップ26・アジア最終予選が始まる。日本はオーストラリア、サウジアラビア、バーレーン、中国、インドネシアと同組になり、当面は出場権を得られる上位2位を目指すことになる。今年行われたAFCアジアカップカタール2023では準々決勝で敗退した日本代表には、最終予選を戦ううえでも懸念材料はある。 シリア戦直後でまだ最終予選の組合せが決定する前だったが、アレックス・ラレアに最終予選の展望を聞いてみた。 「現在の日本代表はおそらく史上最高のメンバーが集まっています。ですから、出場権を逃すような失敗は絶対にありえないと思います。もちろん、サッカーなので90分間のなかで何が起きるかわかりません。さまざまな要素によって、自分たちが思い描くようにいかないことが起こるかもしれません。ですが、そういった可能性を含めても、日本代表は出場権を獲得できるでしょう」 「極論になりますが、日本代表が挑むアジアでの戦いは、その7~8割ほどが何もしなくても勝てるでしょう。なぜなら、大半の場合が格下相手だからです。そういった現状だと細かなゲームプランを実行できていなくても、選手個々がもつ能力だけで勝ててしまう。それが今の日本代表です」 アジアカップ敗退以後の森保監督はこれまで以上にオプションを増やそうとしており、3バックのシステムを本格的に導入したり、新しい選手を招集したりと、最終予選に向けた対策に積極的なように見える。しかし、大きな変化は得られていないとアレックスは評価する。 ⚫︎「コンビネーションもとても古典的」「その解像度がポイント」 「システムやポジションを変えて新しいことを試みているようですが、内容を見るかぎり試合の中で行われていることや起こっていることに大きな変化は感じられません。結局は、同じようなボールの動かし方ですし、人の動き方も同様です」 「そして、見出そうとしているコンビネーションもとてもクラシカルなもので、意表を突くようなことを起こせていません。ただ選手だけが入れ替えているだけで、同じことを繰り返しているように思えます」 そういった取り組みであったとしても、先にアレックスが言及したとおり最終予選は突破できるかもしれない。しかし、現在の日本代表が目標とするところはワールドカップ優勝であり、最低でも8強以上まで勝ち上がることだ。 そのような勝利のために、ヨーロッパの最前線で戦っている監督たちが実践している一部を解説してくれた。 「ゲームプランをどれだけ細かく設定するか、その解像度がポイントだと思います。たとえば、堂安律を右サイドに置く理由は彼がクラブでそうしているからであって、それ以上でもそれ以下でもないような気がします。おそらく久保建英や他の選手についても同様でしょう」 「ですが、本来は自分たちのチームはどのように人を動かし、どのようにボールを動かすのかを考えながら選手の配置を考えます。仮に、左利きの久保を右サイドに置くとすると、ボールの動きが縦方向が多いのか、横方向が多いのかを考慮します。カットインが多いのであれば同サイドのポケットにスペースが空くので、そこへのパスという選択肢もできます。そうなると、そのスペースを突くのが得意な選手は誰になるだろうかという感じで組み立てていきます」 「他にも、右サイドバックの選手がオーバーラップするとしたら、センターバックやボランチの選手はどうやって守るべきかなど複合的に考えていくのです。どのように人が動くかを考え、その動きが得意なのは誰なのかを見定めてフォーメーションを決めるのですが、決めるに至るまでの思考における解像度が重要だと思います」 ただ、それはひとつの方法であって、森保監督は別の方法でアプローチして最適解を導く可能性もゼロではないという。この考え方はあくまでもポジショナルサッカーのベースであって、その解像度の高いレンズを持つ指導者が重宝されるが、「森保監督は別のレンズを使った方法かもしれない」とアレックスは評価する。 アジアカップではロングボールから押し込まれる場面が目立ち、日本代表の弱点としてピックアップされた。最終予選に向けて対策は急務となる。 そのロングボール対策の進捗について、アレックスはどう見ているのだろうか。 ⚫︎監督の仕事としてアレックスが疑問を抱くのは… 「現在の日本代表にはセンターバックにも質の高い選手がいます。以前にも言いましたが、全体的にアグレッシブな守備ができており、今のセンターバックであれば大きな問題は起きずにうまくやれるでしょう」 「ただ、ロングボールをはね返した後のセカンドボールについては、注視しなければなりません。アジアカップではボランチの脇にできるスペースを相手に使われて、そこから展開されて危険な状況に陥っていました。しかも、同じような展開が起こりそうな場面は今でも見られます。その理由は先ほど話した人の配置につながります」 「それは鎌田大地や久保建英ら攻撃的な選手を中央で多く起用する代償といえるでしょう。そのスペースを防ぎたいのであれば、別の選手を起用するというのがひとつの解決方法です。ただ、現在のメンバーのままを望むなら、そういった守備面のリスクは許容すべきです」 「おそらく、現在は守備面でのリスクより攻撃面での優位性を優先して、彼らを起用しているのだと思います。ですから、今は許容している状態なのですが、そういった守備面でのリスクに対してどのようにプランニングして、どういった構造で防ごうと考えているのかというのは、今回の試合でも見えてきませんでした」 それでも、監督の仕事として本当の評価はできないという。 ⚫︎疑惑の払拭へ「甘くない」アジア最終予選の戦い方 実は、細かくプランニングしているが選手ができていない可能性も否めないし、そもそもこれまでとは全く違う革新的なアプローチをしているかもしれない。どのような指導がなされているか、その詳細を知ることができない以上は「なんとも言えない」というのが大前提とアレックスは話す。 あくまでも試合という結果から見えたことは、ゲームプランの解像度が低いのではないかという疑惑である。 いよいよ9月から最終予選が始まる。対戦国は着々と日本対策を進め、アジアカップで露呈した弱点を否応なく突いてくるだろう。最終予選ではそういったことも考慮したプランニングが必要になってくる。 森保監督はアジア勢との戦いを「そんなに甘くない」と常々主張している。それを証明するためにも、考え抜いたゲームプランで臨み疑惑を払拭してもらいたい。 (取材・文:川原宏樹)
フットボールチャンネル