仲野太賀、吉田恵輔監督らが「PFFアワード2024」授賞式でエール!「映画ってすてき」「走り続けて」
映画祭「第46回ぴあフィルムフェルティバル 2024(以下、PFF2024)」の表彰式、「PFFアワード2024」が9月20日にコートヤード・マリオット銀座東武ホテルにて開催された。 【写真を見る】最終審査員を務めた吉田恵輔監督 映画祭のメインプログラムのコンペティション「PFFアワード」は、これまでに黒沢清、塚本晋也、佐藤信介、李相日、荻上直子、石井裕也、早川千絵、山中瑤子ら180名を超えるプロの映画監督を輩出。映画監督への登竜門として知られている。今年の応募数は昨年より135本の増加の692本に。応募者の最年少は9歳、最年長は80歳、最短1分、最長172分の作品が応募されるというバラエティに富んだラインナップが揃った。 観客賞は『あなたの代わりのあなた展』が受賞。劇団をやっているという山田遊監督はQRコードをプリントしたポスターを持参し「宣伝に来ました!」と笑わせる。コメント前には持ち時間を確認するなど、余裕を見せながら授賞式を盛り上げた。 映画ファン賞(ぴあニスト賞)は『ちあきの変拍子』。監督は白岩周也、福留莉玖の高校生コンビで、本作は放送部で映画を作ったという異色の作品。「映画を作ろうというメンバーが集まったわけでもなく、入選だけでもすごいことだと思っていたのに……」と驚きを隠せない様子だった。 エンタテインメント賞(ホリプロ賞)は『さよならピーチ』。監督の遠藤愛海は、映画に愛が詰まっているとの受賞理由に対し、「撮影中は映画が大嫌いになっていた」とコメント。さらに「一緒に作っている仲間に対しても殺してやりたいと思っていたくらい嫌だった」と吐露したところで、制作がとても大変だったと話し、号泣。言葉に詰まる場面もあったが、受賞したホリプロ賞は、歴代の受賞監督が事務所入りをしていることが明かされると9月に卒業予定であることが明かされ、「企画、いっぱいあります!」とアピールし、最後は晴れやかな笑顔を見せていた。 審査員特別賞は林真子監督の『これらが全てFantasyだったあの頃。』、Kako Annika Esashi監督の『END of DINOSAURS』、畔柳太陽監督の『松坂さん』の3作品。プレゼンターは最終審査員を務めた吉田恵輔監督。俳優の仲野太賀、クリエイティブ・ディレクターで小説家の高崎卓馬。吉田監督は入選作品全19作のなかで『これらが全てFantasyだったあの頃。』が一番好きだそうで、映画にはシーンごとにアイデアが詰まっていたと大絶賛。「1アイデアで走った作品じゃない、それは観ればわかる!あなたの未来は明るいです!」とエール。吉田監督の言葉に林監督は「吉田監督の作品観てます!」と微笑み、受賞のよろこびを噛み締めていた。 Kako Annika Esashi監督の『END of DINOSAURS』について「セリフのためのセリフというよりも、ため息のような、個人的で実感のこもったセリフであったのが印象的だった。日本に対するシニカルな批評性、そのひとつの視点があることで、いま撮るべき映画として成り立っている」と感想を伝え、「日本映画に新しい風を吹かせてください!」との言葉と大きな拍手を贈っていた。Kako Annika Esashi監督は、国連で働いていた際に感じていたフラストレーションを源に作った作品だと明かしていた。畔柳太陽監督の『松坂さん』が一番好きだという高崎が「一番惹かれたのは、セリフのセンスです。こういう人が映画を作るようになると自分はテンションが上がります」とし、来年はぜひともグランプリを狙ってほしいと応援の言葉を送ると、本作が卒業制作作品だという畔柳監督は「これからも頑張ります!」と力強く宣言していた。 準グランプリは稲川悠司監督の『秋の風吹く』。プレゼンターで最終審査員を務めたフィルムメーカーでアーティストの小田香は「しゃべるのが得意じゃないので」と、準備してきた感想を読み上げる。稲川監督の視点に触れ「作品を作っていただきありがとうございます」と感謝。稲川監督は「受賞は本当にびっくりしています。なかば、やけっぱちで作った作品。1人で映画を作るのはもう嫌です」と大変だった制作を振り返り苦笑い。続けて「お金がもらえるので、長編SF大作を作ります!」と宣言するも、準グランプリの賞金ではSF大作は作れないとのツッコミが入り、笑い飛ばす場面もあった。 グランプリは川島佑喜監督の『I AM NOT INVISIBLE』。プレゼンターで最終審査員を務めた作家でアーティストの小林エリカは、「深い感銘を受けた」と感想を伝え、全員一致での受賞だったと伝える。審査の席では、映画を作ることそして、発表することが作者である川島監督自身への救いになるのでは?との声もあったそう。「川島監督がこの世界、この社会を生き延び、切なる“NOT”を突きつけること、弱さを大切に、しなやかさをもって、すすんでいってくれることを願います」との小林の言葉に川島監督は、大好きな映画はこれまで自分自身の逃げる先であったと明かす。「映画が大好きで、映画館をハシゴして、家に帰ってからも何本も観る。ずっと映画に助けられてきました」と切り出した川島監督は「今回映画を作ることで、辛いことに向き合うこと、立ち向かう術を見つけたと思います」と力を込め、これからも答えが出ることもあるだろうけれど、とにかく考え続けていきたいとし、「精進して参ります」と宣言。会場にはこの日一番の拍手が湧き起こった。 総評ではグランプリ受賞の川島監督の「精進して参ります」との言葉に鳥肌がたったという高崎が、「僕は4回PFFにトライしてノミネートもされていません。そのときの悔しさで頑張っていまがあります。30年経ったらヴェンダースと映画を作れることもある。それもひとつの道かなと」と受賞がすべてではないとし、今日の気持ちを生涯忘れずにものづくりに励んでほしいと笑顔。小林は「映画を完成させて応募するだけでもすごいこと。僕も25年前にPFFに応募して落とされた1人です」と話し、「(PFFに)憧れながらも手も届かなかった。でも、映画をずっと好きで良かったというのが正直な感想。映画と共に生き延びられたから、この場所はとても大切な場所」としみじみ。 「PFFのスカラシップで作る映画のオーディションで落ちました」と続け、笑いを誘った仲野は「映画を好きになって、憧れる監督はみんなPFF出身の方ばかり。それに気づいてから、スカラシップ作品を観まくりました」と振り返る。無我夢中で映画を観たことで「俳優として育ててもらった、いろいろな感性を磨いてもらったと思っています。僕にとっても憧れの場所に来られたことを感慨深く思っています。19作品、それぞれ個性が強い。映画に対する情熱、愛、なんとか自分の表現を貫き通したいという、観ているだけでパワーをもらえる作品ばかり」と感想を伝える。さらに「みなさんの表キラキラした表情を見ていると、あらためて映画ってすてきだと思いました」とニッコリ。全員に賞をあげたいような気持ちで、審査する時間も楽しかったとし、「いつかどこかの映画の現場で、ご一緒できる日を楽しみにしています!」と呼びかけた。 小田は「映画を誰かに届けたいと思い、作り上げた人、それを公開してようとすることに尽力する人に作り手として観る側としても感謝しています。どこかにいるかもしれない誰かのために、作っただけでは終わらない、誰かとの縁をみつけ、今後の上映に繋がることを願います」と語った。吉田監督もPFFに応募したが縁がなかったとのこと。しかし「いま、結構活躍しています」とニヤリとし、「作り続けたから今があると思っています。作り続けたら、続けたで、大変なこともあります。予算がつかないことも、プロデューサーがセンスないことを言ったり、映画が大嫌いになることもあります」と自身の経験を重ねながらコメント。「それでもやる価値があると思う瞬間がある。“100”つらくても“1”幸せ。その“1”の幸せがすごく強いです。走り続けてください!」と映画作りの大変さに触れつつも、自分が映画を作り続ける理由を明かし、次代の映画監督のパワーになるであろうエールを贈り、授賞式を締めくくった。 取材・文/タナカシノブ ※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記