八万地獄周辺の地獄巡りルート

　長崎県雲仙市の雲仙温泉街を襲った土砂崩れから１３日で３年。災害では小地獄地区で３人が犠牲となり、約１キロ離れた雲仙観光の中心「八万地獄」も土砂に埋もれた。３年を経て観光業はほぼ復調したが、地盤が弱いため県の防災工事が遅れていて、八万地獄周辺の遊歩道は立ち入り禁止が続く。工事の遅れは周辺の再整備計画にも影を落としている。 ■回復 　２０２１年８月１３日の夕方に発生した土砂崩れで、八万地獄近くの甘味処「やらやら」には大量の土砂が押し寄せた。全部の窓が割れて土砂が流れ込み、店内は壊滅状態に。経営する「もみの木」（諫早市）営業部長の諸山康光さんは「土砂がいっぱいで、どこから店に入ったらいいか分からなかった」と振り返る。 　被災店舗を改修して２２年２月から部分営業を続けた。昨年４月、近隣に移転し、土産物と食事処「やらやらサパン」をオープン。諸山さんは「温泉街をさらに元気にしたい」と意気込む。 　雲仙市の延べ観光客数は、災害が発生した２１年の１５９万人から、２２年は１９７万人に回復。新型コロナウイルスの５類移行も相まって、２３年は前年をさらに上回る見込みだ。 ■慎重 　県は２２年１１月、八万地獄上方の山地の防災工事に着手した。工事区域は約３千平方メートル。地表から打ち込んだ固定具にワイヤを取り付けて引っ張り、斜面を安定化させる工法で、地滑りや土砂崩れを防ぐ。 　しかし、地獄地帯は地熱や硫黄物質のために地盤が軟弱という悪条件がある。工事は車両の仮設道路づくりなどが難航したために遅れ、終了時期は当初計画より約２年遅れて２６年度になる見込みだ。 　約６０年前には、温泉街の工事で熱湯蒸気が噴き出して作業員５人が死亡する事故が起きた。県の担当者は、工事現場の真下に観光施設などがあるため、今回の工事は特に慎重さを要すると説明する。 ■資金 　観光地の魅力をさらに高めようと、地獄地帯を管理する環境省と県、市が中心になり、２１年秋から地獄周辺の再整備計画づくりに着手した。八万地獄そばにある温泉神社から同地獄へ続く遊歩道の付近に、テラスを設置する案などが検討されている。 　温泉神社は土砂崩れで、八万地獄側の鳥居やこま犬、灯籠が土砂で流された。復旧資金をクラウドファンディングで募ると５００万円近くが寄せられた。しかし再整備計画との兼ね合いで、鳥居を再建する位置などが神社の一存で決められず、集めた資金が宙に浮く形になっている。 　災害前は、神社を訪れた観光客が境内から鳥居をくぐり、遊歩道に通り抜けて地獄巡りをしていた。だが遊歩道の立ち入り禁止が続いているため、神社側は観光客から地獄への行き方を聞かれるたびに、清七地獄そばのルートを案内している。廣瀬和一郎宮司は「早く周りを整備してほしい」と願う。 　環境省は「歩道の整備や土のう撤去は県の工事が終わってから」と説明する。県の担当者は「安全かつ早急に工事を進めたい」としている。