大怪我から鮮烈復帰…広島・寺嶋良「忘れられない瞬間」指揮官も期待する“進化した姿”へ前進
■「朝起きた時、ひざは1番いい状態だった」
広島サンプラザホールのコートに閃光が走った。逆転に向けて猛追する第4クォーターの立ち上がり、長期離脱から復帰した寺嶋良が速攻からのレイアップで約10カ月ぶりの得点を決めると、直後に3ポイントシュートも沈めてチームを勢いづける圧巻の連続得点。帰ってきたエースが胸を叩いて雄叫びを上げた。 広島ドラゴンフライズは1月10、11日、りそなグループ B.LEAGUE 2024-25 B1リーグ第17節でホームに長崎ヴェルカを迎えた。寺嶋は昨年3月の試合中に右ひざを負傷し、同5月には追加手術を受けて離脱が続いていたが、長いリハビリ期間を経て長崎戦を前に復帰間近となっていた。 復帰のタイミングを模索していた中、出場が決まったのは試合当日。「朝起きた時、ひざは1番いい状態だった」。朝山正悟ヘッドコーチから状態を確認され、寺嶋は出場意思を込めて答えた。「いい感じです」。昨年3月3日の負傷交代から313日。ホームブースターの歓迎の中で広島の背番号0がコートに戻ってきた。 「最初は不安な部分もあったけど、歓声を聞いた瞬間にスイッチが入った。いろんなものが蘇ってきて、元の自分のようなプレーができたと思う」 第2クォーター残り8分5秒に初出場し、向かったのは右コーナー。「最初はひざが温まるまで自分がボールを運ぶのは難しそうだったので、2番(シューティングガード)でプレーした」と慎重に試合に入った。ファーストタッチは7分15秒、ドウェイン・エバンスからパスを受け、ドリブルしてエバンスにリターン。守備の時間が続く中、5分34秒に中村拓人とのパス交換で2度目のボールタッチ。4分9秒にディフェンスリバウンドを取り、3分32秒に馬場雄大からスティールを狙ったがファウル。そこで交代となり、4分33秒間の出番を軽快な動きで駆け抜けた。
■「あの大歓声は忘れられない瞬間だった」
寺嶋がバスケットボールを再開したのは最近のこと。チームは過密日程だったため、練習では主に朝山HCやスタッフ陣を相手に調整してきた。久々に試合で相手選手と対峙して、「当たり前だけど、『でかいな』、『速いな』と思った」とコート上の感覚を取り戻してうれしそうに笑みをこぼした。 試合は前半から完全に長崎のゲームだった。広島は27-47と20点のビハインドを背負って試合を折り返す。しかし、この日30得点を叩き出したエバンスを中心に後半から広島が猛追。第3クォーターの終盤にはキャプテンの上澤俊喜がスティールから3ポイントを決めて逆転へ勢いづいた。 8点差を追う第4クォーターは寺嶋のボール運びから始まった。スタートからコートに立ち、「(離脱前は)自分がボール運んでリズムをつかんでいくバスケをしていたので、やっぱり2番でやるよりも自分でボールを運んでみた方がリズムをつかみやすいと思って自分で変えました」と本来のポイントガードでプレーした。 立ち上がりの8分37秒、寺嶋は馬場とマッチアップし、粘りのディフェンスで喰らいつく。「馬場選手のアタックについていきながらミスを誘えた。そのとき、(馬場が)ボールを投げた先にトシ(上澤)がいるとわかっていたので、その時点でもう前に走ろうと思った。予測して動けたプレーでした」 上澤がスティールしたとき、寺嶋は誰よりも早く走り出していた。キャプテンからパスを受けると、背番号0がスピードに乗ってコートを駆け上がってレイアップを決め切った。瞬く間の復帰後初得点。待望のシーンにブースターの歓喜が会場中に弾けた。 「あの大歓声は忘れられない瞬間だった。本当に、ここまで頑張ってきて良かったなと思いました」 ただ、スコアはまだ4点差。逆転勝利に向けてエースは止まらなかった。「チームを1番勢いづけるのも3ポイントだし、とにかく3ポイントで自分の勢いをつけたいと思っていた」 。初得点の直後、馬場にすかさず3ポイントを決められたが、寺嶋も黙っていない。 「本来ならコーナーステイでいいと思ったけど、あえて自分でもらいに行って、得意なシュートを自分のリズムで打つようにした」。右サイドからトップに走り、ケリー・ブラックシアー・ジュニアからパスとサポートを受けて一瞬フリーになった。「絶対に決めてやる」。強い気持ちで放った3ポイントシュートはネットを揺らし、寺嶋が感情を解き放つように吠えた。 「自分が何かすれば、会場のボルテージが上がると察していたし、チームの士気も高まると思っていた。だから、点に絡もうと思ってプレーしていた」。その言葉どおり、エースの連続得点でホームの応援は最高潮に達し、最後まで広島のゲーム支配を後押しした。フルメンバーがそろったチームと圧倒的な雰囲気を作ったブースター。広島が一体となって78-71の逆転勝利をつかんだ。