夢は公務員だった159km右腕「やりたい事がなくて…」 農業高校土木科出身、ドラ1候補が覚醒した“隔離部屋”
大学侍入りを果たした愛工大・中村、農業高校に進んだワケは…
野球の侍ジャパン大学代表は欧州に渡り、6日からチェコで行われる「プラハ・ベースボールウィーク」を戦う。ここで守護神として期待されるのが、最速159キロ右腕の中村優斗投手(愛工大4年)だ。ただ高校時代は「プロ野球なんて全く考えていなかった」といい、学んだのも公務員試験で抜群の合格率を誇る農業高校。ドラフト1位でのプロ入りを視界にとらえるまでには、意外な“きっかけ”があった。 【動画】最速157キロが「藤川球児みたいなストレート」 ファンを騒然とさせた中村優斗の剛速球 「本当にやりたいことがなくて……。野球に限らず、欲がなかったんです」 なぜ諫早農高(長崎)に進んだのか中村に聞くと、困ったような顔をする。実家が農業を営んでいるわけではない。「親に進路の相談をしたら、公務員を目指せばということになったんです」。同高の農業土木科に進んだのは、全国的に見ても抜群の公務員試験合格率を誇るからだ。実際に同級生は県の内外で公務員となり、活躍中だという。 「野球は高3までやって、長崎県の公務員になれればいいなと思っていました」という中村に転機が訪れるのは2年の時だ。2019年夏の長崎県大会、3回戦で私立の瓊浦高を完封したのが愛工大の平井光親監督(元ロッテ)に伝わり、「うちで野球をやらないか」と誘われたのだ。 「当時の最速が141キロだったんですが、長崎にそれくらい投げる投手がいなかったのもあると思います」。人からの評価は人生を変える。自分にもそういう道があるのだと気づかされた瞬間だった。
コロナ禍とともに始まった大学生活…“隔離部屋”で球速アップ
誘い通り愛工大に進んだ。ただ1年生だった2021年はまだまだ新型コロナ禍の真っ最中。公式戦は行われていたものの、合宿所では選手同士の接触も禁じられる状況だった。通常は2人部屋のところが1人部屋となり、全体練習もなし。思い描いていた大学生活とは全く違った。 それが飛躍のきっかけとなるのだからわからない。「僕らは“隔離部屋”と呼んでいたのですが、とにかく自分の部屋でひたすら筋トレや柔軟の繰り返しです」。禁が解けた秋、直球の最速は151キロまで伸びていた。もしコロナがなかったら…「今ごろ、ここ(大学代表)にはいなかったかもしれませんね」というのは心からの思いだろう。 中村は今年3月、欧州代表と戦う侍ジャパンのフル代表に初選出され、1回無失点と好投。京セラドームで時速157キロを叩き出し注目された。7月2日には、大学ジャパンを激励に訪れた井端弘和監督と再会し「ずっとスピードが出ていてすごいねと言われました。(今秋行われる)プレミア12の代表に入りたいという話をしました」。欲がなかった中学生を変えた野球。今は最速160キロの看板とドラフト1位でのプロ入りという夢に向かって、ひたむきに努力を続けている。
THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori