「演じさせてもらっていれば満足…」無欲の神木隆之介が『ゴジラー1.0』で賞レースの主役になるまで
世界的な大ヒットを記録する映画『ゴジラ-1.0』。昨年12月1日から邦画実写史上最大規模のスケールで北米でも公開され、全世界の興行収入はなんと140億円を突破する勢いをみせている。 【写真あり】神木隆之介 ヒロイン浜辺美波と「ツーショット」姿 さらに先日発表された『第96回アカデミー賞』では名誉ある視覚効果賞にノミネートされ、山崎貴監督は早くも「続編宣言」。そんな中、注目を集めているのが、主演の神木隆之介だ。 「神木は1月に発表された『第66回ブルーリボン賞』で主演男優賞を受賞。さらに『第47回日本アカデミー賞』でも優秀主演男優賞を獲得しています。 これまで賞取りレースとは無縁と言われた神木が、ここに来て俳優として大ブレイクを果たしています」(ワイドショー関係者) 『ゴジラ』は今年、シリーズ開始から70年。そして30作目にあたる記念すべきアニバーサリー。それだけにオファーされた際、 「プレッシャーはありました。ただ自分がどこまでできるか、挑戦でもあり引き受けた」 と意気込みを語っている。 「神木演じる敷島浩一は、特攻隊員なのに命惜しさに逃げて帰って来てしまう。それだけではありません。ゴジラに襲われた大戸島の守備隊まで見殺しにしてしまう。そんなトラウマを抱え生きていく難しい役どころ。 敷島を演じるにあたり、神木はひたすら鏡に向かって『お前は生きていちゃいけない人間なんだ』と念じ、『早く死ねよ』と書かれた携帯の待ち受けを見ながら自身を追い込んでいきました。そうした神木演じる敷島の葛藤が、1月12日から公開された“モノクロ版”では、より切実に迫ってきます」(制作会社プロデューサー) 神木自身も生後間もなく4ヵ月にわたって危篤状態に陥り、母親が 「生きている証を残したい」 そんな思いからタレント事務所に応募した経験の持ち主。みずからを 「2回目の人生のようなもの」 と話す。そんな神木だからこそ、生き残ってしまった敷島の思いが手に取るように分かるのかもしれない。 しかしなぜ、神木隆之介が今作『ゴジラ-1.0』の主役に抜擢されたのか――。 その理由を説明するためには、7年前に作られた前作『シン・ゴジラ』にまで話を戻さなければならない。 「庵野秀明氏が脚本・総監督を務める『シン・ゴジラ』は、興行収入82.5億円というゴジラシリーズ史上最大のヒットを記録。この作品で、現代を舞台にした“ゴジラ映画”のやるべきことは、すべてやり尽くされてしまいました。 新しいゴジラ映画を生み出すためには、まったく新しい未知のコンセプトが必要。そこで白羽の矢が立ったのが、山崎貴監督というわけです」(前出・プロデューサー) 山崎監督はVFX(視覚効果)の第一人者であり、これまで映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや映画『永遠の0』(’13年)、映画『アルキメデスの大戦』(’19年)など、日本の戦中戦後をダイナミックに描きヒット作を連発してきた。 特に『ALWAYS 続・三丁目の夕日』の冒頭には、ゴジラが登場。その後、VFXの技術の進歩などもあり、今の技術と環境ならば、“自分が理想とするゴジラ映画”が作れる。 そんな思いから、新しい『ゴジラ』のオファーを受ける決心をしたという。’19年、東宝に送られてきた山崎監督の新作ゴジラに関するアイディアは、実に画期的なものだった。 「終戦直後、日本が国家として最も脆弱だった時代を舞台に、元・特攻隊の主人公を中心に民間の人たちがゴジラに立ち向かう。この’54年に公開された第1作の『ゴジラ』より前の時代を舞台にするアイディアは社内でも絶賛され、新しい『ゴジラ』のプロジェクトは実現に向けて動き出しました」(制作会社ディレクター) これまでの『ゴジラ』映画は、政治家や官僚、自衛隊や科学者たちがゴジラに立ち向かったが、今回は民間人、一般市民がゴジラに立ち向かう。これは、コロナ禍でうまく機能しなかった政府への苛立ちを募らせた我々現代人にも共通する思い。そうした主人公に相応しかったのが、昭和の世界が似合う神木隆之介というわけだ。 「『ゴジラ』映画は、怪獣の物語と人間のドラマを融合させることが難しい。そこで仲間を殺され、ゴジラへ復讐心を抱く敷島を主人公に据える。 しかも『生きていてはいけない』と考える主人公が、ヒロイン典子(浜辺美波)や娘の明子と触れ合ううちに新たな人生を見つけていく。そんな物語が生まれました。この展開は、江戸時代に生きる庶民や下級武士の哀歓を描いた藤沢周平の時代小説を思わせ、味わい深いものがありました」(前出・ディレクター) 生後間もなく生死を彷徨った神木は、かねがね 「ただ、何かを演じさせてもらっていれば、満足。それだけでいいんです」 と答える。いい意味でも悪い意味でも“無欲の人”だ。 昨年は朝ドラ『らんまん』(NHK)で主人公を演じ、国民的な俳優の仲間入り。さらに今作では数々の賞にも輝き、今や日本の芸能界のど真ん中に立つ俳優のひとり。 もはや“無欲の人”ではいられない――。 文:島右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版
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