『ビバリウム』監督の“不気味さ”が癖になる “寄生”映画『NOCEBO/ノセボ』の恐怖
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、今年の正月は帰省しないことに決めた間瀬が『NOCEBO/ノセボ』をプッシュします。 【写真】『NOCEBO/ノセボ』場面カット(複数あり) ■『NOCEBO/ノセボ』 もし本作の監督を務めたロルカン・フィネガン監督にインタビューをする機会があれば、「寄生すること」についてどんな思い入れがあるのかどうかを聞きたい。なぜなら、フィネガン監督の前作『ビバリウム』は子どもの皮を被った“何か”が幸福なカップルの間に寄生する話で、『NOCEBO/ノセボ』もまた気持ち悪い“ノミ”に寄生されるところから話が始まるからだ……。 今回も『ビバリウム』と同じように幸福な夫婦が登場する。そして夫婦を悪夢に導くのは“家政婦”だ。ファッションデザイナーとして名を馳せるクリスティーンは、夫・フェリックスと幼い娘・ボブとともに郊外で悠々自適に暮らす。ある日の仕事中、クリスティーンはノミに寄生された大きな黒い犬の幻影に襲われる。 その後、彼女は記憶喪失を伴う原因不明の体調不良に悩まされていた。そんな彼女の前に現れたのが、ダイアナと名乗るフィリピン人の乳母。彼女は雇った覚えのないダイアナを怪しむが、ダイアナは「伝統的な民間療法」でクリスティーンを治療することで彼女の信頼を獲得し、どんどん家族の中に潜り込んでいくのだった……。 タイトルにもなっている「ノセボ(効果)」とは「反偽薬効果」のことで、「この薬には副作用がある」と思い込んで望まない副作用が出たり、本当の薬なのに「こんな治療法や治療者では効くはずはない」と患者側に不信感があると薬の効果が減少することを指すらしい。クリスティーンも、一般的な治療(西洋医学など)は信じなくなっており、ダイアナが言うことだけを信じるようになってしまっていた。 ネタバレ的にこれ以上は言いたくないのだが、このノセボ効果の使い方が非常に巧みだと感じた。それはストーリー展開的にも、そして社会風刺としても。『ビバリウム』もそうだったが、フィネガン監督はこうした「当たり前に社会に存在しているもの」や「人間の生理現象」を効果的に使用するのが持ち味なのだろう(そして“寄生”も?)。 本作でもテーマになっている「信じたいものだけを信じてしまう」という人間の癖は、クリスティーンのように自身に不都合があるときによく発現しやすい。本筋から離れてしまうようではあるが、政治・経済・情勢的に不安定な日本の現状の中において、クリスティーンのようなヒステリックに陥っている人を見かけることが増えたことを思い出した。筆者の偏った見方かもしれないが、監督はそのような人々も視野に入れて制作していたのではないだろうか。 物語構成自体はシンプルでテンポ良く話が進んでいくので、良くも悪くも誰もが等しく楽しめる不気味さに仕上がっている。ただしあくまでも“不気味”ということであり、“恐怖”というとまた違うかもしれない。典型的なホラー映画ファンには物足りないかもしれないが、少なからず『ビバリウム』が好きな人は必ず楽しめる作品だ。 あるいは、帰省先で寄生映画を観るという体験が最も恐怖かもしれません。何はともあれ、リアルサウンドでは来年からも素晴らしい映画をご紹介していきます。みなさん良いお年をお迎えください。
間瀬佑一