イギリスは本を読む子が多い? ブルーナの絵本翻訳者に聞いた「海外の読書事情」
最近読んだものでは、『ベルリン三部作』(クラウス・コルドン作/酒寄進一訳 岩波書店)がとても印象に残っています。『イシ:二つの世界に生きたインディアンの物語』(シオドーラ・クローバー作/中野好夫訳/中村妙子訳/ルース・ロビンズ絵 岩波書店)も忘れられません。
子どもと本をつなぐ仕事を、一生の仕事としたい
――小学校図書館にご勤務経験があり、現在国際児童文庫協会の運営委員をされているとのことでしたが、子どもの本にかかわる仕事への関心はいつ頃からありましたか? 小さい頃から本が好きだったので、大人の本にも子どもの本にも常に興味はありましたが、仕事として意識したのは、大学卒業後、嘱託職員として調布市立図書館で働き始めてからです。働くうちに、図書館は利用する市民によって支えられているのだということ、また日常的に読書をし、図書館を支える大人を育てるためには、子どもへのサービスがとても大切なのだと気がつきました。 そこで子どもの読書に関する本や、児童室にある子どもの本を読んだりしていた時、幸運にも東京子ども図書館の第二期の研修生となることができました。東京子ども図書館には、長年にわたり専門的な目で選ばれ築かれた確かな蔵書があり、それらの本を、図書館にくる子どもたちや、図書館の先輩や仲間たちと一緒に読んでいく中で、沢山の素晴らしい児童書に出会いました。この頃から子どもと本をつなぐ仕事を、一生の仕事としたいと思うようになりました。
図書館の閉鎖が続くイギリスで思うこと
――イギリスには児童書の名作が多い印象があります。イギリスの子ども達は日本の子どもよりも本をよく読みますか? 日本の子どもたちと比べてどうかというのは分かりませんが、基本的にイギリス人はよく本を読む人たちだと思います。 現在、イギリスの公共図書館に勤務しているのですが、児童室では、様々な読書推進活動を行っています。小さい人に向けては、週に3回わらべうたの会があり、常に親子で賑わっています。 また、小学生を対象に、ボランティアの大人が一対一で読み聞かせをすることで、読書が苦手な子どもたちのサポートをするというサービスもあります。 夏には、リーディング・エージェンシーという読書推進機関が企画する「サマー・リーディング・チャレンジ」もあります。イギリス中の公共図書館がパッケージとして購入し、夏休み中の子どもたちは近くの図書館を通してチャレンジに参加することができます。子どもたちは、一冊読むごとに図書館のスタッフと読んだ本に関する話をして、シールや鉛筆をもらいます。チャレンジを終了すると、修了式に参加して賞状とメダルを受け取れるので、毎年沢山の子どもたちが参加して楽しんでいます。 けれども、イギリスでは緊縮財政で予算が十分に得られない図書館の閉鎖が続き、また、コロナ禍等による生活費高騰により、家に本が一冊もないという家庭が増えているという調査もあり、現在、こういった環境による子どもの読書力低下が問題になっています。 よい本と、習慣的に本に親しめる環境が身近にあれば、日本でもイギリスでも同じように、ほとんどの子どもはお話を聞いたり本を読んだりすることが好きだと思います。子どもたちの読書を、社会全体で支えていくことが大切だと思います。
中野百合子(翻訳者)