『ライオンの隠れ家』岡山天音登場で漂う“黒沢清映画”の匂い 背筋がぞくりとするラストに
靴を履いたまま家に上がってきたライオン(佐藤大空)が見せる、「ギリ、セーフ」の仕草で、彼が姉・愛生(尾野真千子)の子どもであることを確信する洸人(柳楽優弥)。しかし彼は、ライオンに直接母親のことを質問しない。それはおそらく、彼が愛生から虐待を受けている可能性があると考えてのことだろう。 【写真】不穏さを放つ向井理の姿も 10月18日に放送された『ライオンの隠れ家』(TBS系)第2話では、図書館に行ってパン屋に行って公園へ行く。そんな小森家の土曜日のルーティーンに訪れる変化が描かれていく。 ライオンから渡されたスマホで、愛生と思しきXという相手に返信を求めると、「ソフトクリームの広場で、鐘のなる頃に」とだけ返ってくる。そのメッセージの意味が始めは理解できない洸人だったが、美路人(坂東龍汰)たちと行った図書館で見つけた古い絵本をきっかけに、遠い昔の記憶にたどり着く。ライオンと美路人を図書館に残し、メッセージの指し示した場所へと向かった洸人は、たまたま後輩の牧村(齋藤飛鳥)と遭遇。しかし愛生は現れることなく、怪しい男が自分たちを撮影しているのを目撃する。さらにライオンと美路人がはぐれ、美路人が警察に保護されたという連絡が入るのである。 行方不明になっている母子の捜索が進む山梨パートから始まった今回の第2話は、それも含めてどこかサスペンスのような空気感が全体を包み込んでいる。それはやはり、メッセージを頼りにショッピングモールにやってきた洸人の姿を、階上から100枚近い連写で撮影する謎の男の登場がそうさせているのだろう。岡山天音が演じているこの男は、作品の公式サイトの相関図を見る限り「X」と名付けられている。つまりは洸人がメッセージでやり取りしていたのは愛生ではなくこの男ということか。 愛生の姿を探す洸人を見下ろし、その姿を追いかけてきた洸人とエスカレーターで入れ違いになる。さらにショッピングモールから堤防に来るよう指示を出し、その場には現れない代わりに、立ち去ろうとする洸人と牧村の乗った車を尾行。そしてしまいには、ひとりになった牧村に接近するのである。ちょうど最近、黒沢清の『Cloud クラウド』に出演していた岡山だけに、今回彼が登場するシーンだけはどこか黒沢清的な不穏さと、第1話で抱いたイメージをガラリと覆すような異物としてそこにあり続ける。考えてみれば、美路人がバスで乗る定位置の席も、同作の序盤の不気味なシーンと重なるではないか。 それはさておき、この謎の男といい、ライオンがずっと大事に抱えているライオンのぬいぐるみにGPSと盗聴器が仕掛けられてることといい、急激に作品のテイストが変わりつつあるようだ(もともと“ヒューマンサスペンス”と銘打っている以上、こうしたミステリアス路線を意図していたのかもしれないが)。 極めつきは、テレビのニュースを通して洸人と山梨パートがつながる終盤。愛生と同じ名前の女性とその息子が行方不明になっていると伝えられ、そこで知った“愁人”という名前で呼びかけると返事をするライオン。一瞬で、2人の間の時が止まる。このラストには、妙に背筋がぞくりとしてしまう。
久保田和馬