【追悼】「額のかたちが違うのかな…」南部虎弾さんに伝授してもらった「おでこ缶ビール」の優しさ
《芸能リポーター・石川敏男の芸能界“あの出来事のウラ側は……”》 元祖・身体を張った芸で一世を風靡し、米国はもとより、オーストラリア、ヨーロッパなどで人気を博した『電撃ネットワーク』南部虎弾さんが脳卒中のために亡くなった。72歳だった。 【かっこいい…写真あり】さすがの”役者顔” 黒沢映画にも出た南部虎弾「髪の毛ふさふさ」20代イケメン時代 初めてお会いしたのは、男性週刊誌記者からの紹介だった。 電撃のステージを観ていたから興味があったが、腰の低い楽しい人だったとはっきり記憶している。挨拶もきっちりされる方で、ステージでとても強烈なパフォーマンスを見せている人には思えなかった。 舞台で時々見せていた額に缶ビールを張り付けて、コップに注ぐ芸。 「このくらいならできるかも」 と、本家から習ったこともあったな。 だが、空き缶は付くのだけれど、中身の入ったビール缶は付かず。丁寧にコーチしてもらったが、素人芸としても物にはならなかった。南部さんからは 「額の形が違うんじゃないのかな」 と言われたことも。その後、何度か銀座のバーでお会いしたが、いつも楽しい酒を飲んでいたね。 ある日、紹介してくれた週刊誌記者から 「南部さんは人工透析を勧められているようですが、本人は頑として受け入れないと言っていて、周りは困っているみたい。人工透析で病院に通うようになったら、ステージはできなくなるというのが、理由みたいですね」 と、知らせてくれたこともあった。結局、約4年半前に妻・由紀さんをドナーとして腎臓移植手術行った。それほど、ステージにこだわった人生だった。 電撃の過激な芸は約400以上あったというが、 「怖いものもありましたよ。怖いと言っていたら使ってもらえないから、覚悟を決めてやっています。それがウケけた時は、芸人冥利ですね」 と、笑いながら話していたのを思い出す。 己の肉体を酷使し衝撃を与えてきた南部さん。 「僕らは身体のケアには無頓着。どれだけ充実したパフォーマンスをお客様に見せることができるかですよ」 と、言い続けてきた。 いまやCMに出ずっぱりの出川哲郎さんも、昔はザリガニに鼻をかませていたし、『ダチョウ倶楽部』の上島竜兵さんは、熱湯風呂や熱々おでんで笑いを取ってきていた。今は身体を張ってバラエティ番組に出演する人は減ったな……。 南部さんの数日前に、「てんかん重積」という病気で63歳で亡くなったエスパー伊藤さんもネットの張っていないテニスラケットを潜って見せたり、小さな袋やバッグから飛び出したりしていた。 あるスポーツ紙の記者さんの結婚披露宴で、スピーチしている私の後ろの袋から出てきたことも。その後、頭にバットをつけてグルグル回っていたが、この芸一つをとっても信じられないパフォーマンス。芸人の凄さを感じた。 元々は俳優志望だった南部さんは、劇団員時代の’80年に故・黒澤明監督『影武者』のオーディションに参加。映画デビューすることになった。 東京・渋谷のストリップ劇場で客席とのやり取りを行っているうちに、台本の無い南部さんの話がお客さんにウケ、それでお笑いに目覚める。周りにいた“食べられない”仲間と、コント集団を作ることに。 そこにいた肥後克宏さん、寺門ジモンさん、上島さんらとダチョウ倶楽部を結成し、初代リーダーだったが、芸の違いで脱退。電撃を作ることに。 そして、どんどん過激さを増していった南部さん。身体を張った芸は、ちゃんと令和の時代にも残された――。合掌。 文:石川敏男(芸能レポーター) ‘46年生まれ、東京都出身。松竹宣伝部→女性誌記者→芸能レポーターという異色の経歴の持ち主。『ザ・ワイド』『情報ライブ ミヤネ屋』(ともに日本テレビ系)などで活躍後、現在は『めんたいワイド』(福岡放送)、『す・またん』(読売テレビ)、レインボータウンFMにレギュラー出演中
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