センバツ高校野球 山梨学院、県勢初V チャレンジャー、頂に立つ /山梨
第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)は1日、決勝があり、山梨学院は報徳学園(兵庫)を7―3で破り初優勝した。県勢としても春夏通じて甲子園優勝は初めて。「俺たちはチャレンジャー」のスローガン通り挑戦心を胸に開幕戦から6戦を勝ち抜いた選手には、生徒や保護者ら1000人以上が集まった1塁側アルプスから「よくやった。ありがとう」という称賛の声が贈られた。【竹田直人、山口敬人、野原寛史】 ◇勢いに乗り、五回に逆転 準々決勝から3戦連続でビッグイニングを作り出し、日本一の座をもぎ取った。 2点を追う五回。1死二、三塁の好機で9番・伊藤光輝(3年)が左前に2点適時打を放って同点に。1番・徳弘太陽(3年)も中前打で続き、2番・星野泰輝(3年)が左翼方向へ適時打で勝ち越しに成功した。 一塁側アルプス席から伝統のチャンステーマ「BIGWAVE」のメロディーと歓声が響く中、打線の波状攻撃はさらに続いた。3番・岳原陵河(3年)が右中間を破る適時二塁打を放つと、二塁上でガッツポーズ。とどめは5番・佐仲大輝(3年)が1ボール2ストライクに追い込まれながらも打球をレフトスタンドに運び、この回は打者10人が6長短打を打って7点を奪い取った。 連日の集中打による逆転劇について、佐仲は「自分たちは仲が良くてまとまりが強い。誰かが打つと、他の選手もどんどん打つようになる」と分析する。勢いに乗った挑戦者たちが、頂点に立った。 ◇甲府市長声援送る ○…山梨県勢初の決勝進出とあって、甲府市の樋口雄一市長も甲子園に駆け付けた。市長就任後、甲子園で高校野球を応援するのは、2015年夏の東海大甲府の3回戦以来。山梨学院の校長らには「ベスト8に進出したら」と話していたが、公務と重なり約束を果たせずにいた。決勝は「他の用事は切り捨てて、飛んできた」と、メガホンを手に声援を送った。試合後「優勝の瞬間に立ち会えるとは。活躍を見た子どもたちが、頑張ろうという気持ちになってくれることがうれしい」と話した。 山梨県の長崎幸太郎知事もコメントを発表し「全力を尽くして勝ち上がった末に、郷土山梨に紫紺の大優勝旗をもたらしてくれた皆さんの活躍は、県民に希望と勇気をもたらす」とナインをたたえた。降籏友宏県教育長もアルプス席から声援を送った。 ◇そったひげ家宝に ○…山梨学院の吉田正校長(67)は、一塁側アルプススタンドから声援を送った。普段はマスクに隠れて目立たないが、3月18日の開幕戦に勝利してからひげをそらずにいた。 予定された日程通りなら校務で甲子園に来ることはできなかった日が一日あったが、大会は雨で順延となり、日程が変更された。このため自校の試合はすべてアルプススタンドで見守ることができたという。 決勝前には「人生初めてのげん担ぎだったが、全試合応援できたのもひげのおかげかも。きょうはそるよ」と宣言。優勝が決まると、「現実とは思えない。夢の中にいるみたい。ひげはそるけど、捨てずに家宝にする」と喜んでいた。 ◇「山梨の誇り」 JR甲府駅で号外配布 山梨学院の優勝を伝える毎日新聞の号外が1日夕方、JR甲府駅南口で配られた。勝利の瞬間にナインが満面の笑みでマウンドに集まってくる写真に、「山梨学院 優勝」「春夏通じ県勢初」の大きな見出しが躍る紙面だ。 土曜日の午後6時過ぎで、行楽帰りや観光で訪れた駅利用者が普段より目に付く南口。販売店の従業員らが配り始めるとすぐに用意した分がなくなった。手にした人たちからは「山梨の誇りだ」との声が漏れた。【中澤輝浩】 ◇「信じていました」 高校で100人超テレビ観戦 甲府市酒折3の山梨学院高では生徒や教員ら100人以上が集まり、テレビ観戦した。前半の先行された場面では、野球部寮の寮監を3月末で引退した藤原哲人さん(73)、礼子さん(73)夫婦が、生徒とともに心配げに画面を見つめた。選手らは「期待して待っていて」と言い残していた。だから期待は揺らがなかった。 五回裏の逆転劇。メガホンが乱打され、どよめきが上がる会場で、哲人さんは「信じていました」と繰り返し優勝が決まると「真面目で友達思いのいい子たちなんです。ここまでやるとは思わなかった」とうれし涙を流した。礼子さんも「(優勝という)持ちきれないほどのプレゼントをいただきました」と感動していた。 3年生の米長蘭さんも「山梨全体が感動するプレーをしてもらえてうれしい。選手には『お疲れ様でした』と言いたい」と笑顔。テニス部主将の清水唯楓(いぶき)さん(3年)は「同じ学校の仲間が活躍してくれると、自分たちも頑張ろうと思った。『おめでとう』と言いたい」と喜んだ。【宮田哲】 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇一戦ずつ楽しんでいた 山梨学院 佐仲大輝捕手(3年) 四回にボークというまさかの形で先制を許した。マウンドの林は本調子ではないと感じていたこともあり、「自分が打って、連投の林を助けてやりたい」と期していた。 五回に味方打線がつながり、ビッグイニングのにおいは感じていた。2死二塁の場面で打席が回ってきた時点で3点差を付けていたが、報徳学園の打線は強力。準決勝でも大阪桐蔭(大阪)に5点差を返して逆転した。「追加点はまだまだ欲しい」と打席に立った。 「打てる球が来るまで待つ」と決めて、4球目の直球を強振。「外野手の頭は越えるだろう」という手応えはあったが、「まさか本塁打になるとは」。二塁上で打球がスタンドに飛び込んだことに気づいたといい「素直にうれしかった」と振り返る。 悲願の甲子園2勝を挙げて以降、吉田洸二監督は選手たちに「野球を楽しもう」と声をかけていたという。「一戦ずつ楽しんでいるうちにここまで来られた」。毎試合、相手打者陣のデータを頭に入れてエースを支えてきた捕手は、満足そうな笑顔だった。【竹田直人】