トランプ再び(4)米国が地経学的リスクに
鈴木 一人
共和党が米大統領職と上下両院を制した。「トリプルレッド」の達成で「米国第一」を加速するトランプ次期大統領に、石破茂首相はどう向き合うのか。筆者は、地政学に経済的観点を加えた「地経学」の立場からのリスク把握が必要だと指摘する。 11月5日の米大統領選挙において、トランプ前大統領が当選した。激戦州7州を僅差とはいえ全て押さえたうえ、選挙人の数で民主党のハリス副大統領を圧倒した。また、民主党が強い州においてトランプ氏への投票が増えたこともあり、総得票数でもハリス氏を上回った。上下両院も合わせ、共和党が圧勝した選挙であることは間違いない。
国際社会へのインパクト
トランプ氏が勝利したことで、これからの国際秩序のあり方に対する不安が強まっている。第1期目のトランプ政権では、自由貿易をはじめとする既存の国際秩序を定めたルールはアメリカの利益に反するとして、それらを無視することを厭わなかった。アメリカに負担の大きい同盟関係を軽視し、他国により多くの負担をすることを求め、人権や環境問題といった国際的な規範についても、ちゅうちょなくあらがう政策をとった。こうしたトランプ政権が再び戻ってくることに対し、安全保障や経済分野での日米韓3カ国協力を制度化したり、第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)において気候変動に関する資金提供でアメリカの関与(コミットメント)を定めたりするなど、国際社会は何とかして次期トランプ政権の政策の方向性を絞り込もうと努力をしているが、実際にトランプ氏が大統領に就任すれば、これらの制度や約束事も無視される可能性がある。 また、トランプ氏の選挙キャンペーン中の発言や人事を見ても明らかなように、第2期トランプ政権は第1期以上に中国に対して敵対的な姿勢をとることが想定される。トランプ氏はバイデン政権との違いを際立たせるために、バイデン時代に進められた半導体輸出規制などに加え、他の技術分野(例えばバイオ技術など)においても輸出規制を強化することで技術流出を妨げるようなことを目指すであろう。また、台湾に関しては、「アメリカから半導体技術を盗んだ」といった発言にみられるように、積極的に台湾を支持する立場をとっているわけではない。 米中対立の中でも、トランプ氏は特に関税を重視している。中国に対して一律60%の関税をかけるといった発言をするだけでなく、中国が台湾を侵攻するのであれば関税を200%にするなど、単なる自国産業の保護というよりは、他国に対する懲罰的な措置として関税を考えていることを示唆している。最終的に関税はアメリカの消費者が支払うことになるのだが、トランプ氏はそうした理解をしておらず、関税をかければ他国が関税分のコストを負担するものだと認識していることもうかがわせる。