風とロック 箭内道彦×サンボマスター 山口隆 対談 故郷への想いを分かち合ってきた20年の交流
乃木坂46とは対バン “故郷”でつながる各日程の見どころ
「福島が復興していく姿は、能登の人たちにとっても光になるはず」(箭内) ――郡山でサンボマスターが演奏した「I love you & I need you ふくしま」の映像は今もYouTubeに上がっていて。何度観てもグッときます。 箭内:あれは生配信の映像なんだけど、映像チームには「お客さんの顔をたくさん映して」と指示したんです。山口くんの歌を受け止めている人たちを撮りたかったし、その表情を伝えたかったので。 山口:そうだったんですね。箭内さん、イベントの収益はすべて寄付してるんでしょ? 箭内:そう。お客さんが楽しんでくれて、それが支援になるということですけどね。全部お客さんのお金なので。 山口:簡単にはできないことだと思います。『渋谷のラジオ』(震災時にラジオがコミュニティを繋いだ気づきから、ボランティアなどと共に作る渋谷のコミュニティFM)もそうですけど、こうやって続けているのがすごい。 箭内:支援って手分けするのが大事だと思ってるんだよね。みんなで同じことをやるのではなくて、それぞれができることをやる。あとね、福島が復興していく姿は、たとえば能登の人たちにとっても未来の光になるはずだと思っていて。福島を支えるというより、一緒に作っていくという役割なのかなと。 山口:箭内さんの名前って、どんどん大きくなってると思うんですよ、本人の意思にかかわらず。でも2人で話をしていると、福島訛りで「怒られてばっかりだぁ」とか言ってて。こんなこと言うと失礼かもしれないけど、愛おしいんですよ。 箭内:仕事のやり方がみんなに心配をかけるスタイルなんだろうね(笑)。周りの人たちが「大丈夫? 俺が宣伝してやらないと」と思ってくれるという。 山口:無防備なんですよね。さいたまスーパーアリーナのイベント(『箭内道彦60年記念企画 風とロック さいしょでさいごの スーパーアリーナ “FURUSATO”』)もすごいじゃないですか。今日はこの話をしにきたんですよ、僕は! 箭内:それはいいって。そうやってギラギラしてると、読んでる人も受けつけないよ。「いつの間にかイベントの話が混ざってる」というのをリアルサウンドさんも狙ってるんだから(笑)。 山口:(笑)。でも、よく(さいたまスーパーアリーナを)押さえられましたね。 箭内:ポロッとスケジュールが出てきたんだよね。「今日決めてもらえたら貸せます」と言われて、値段も聞かずに決めてしまって。あとで値段を知って「キャンセルできます?」と聞いたらダメだった(笑)。 山口:すごいな(笑)。僕らがこのイベントに協力させてもらったのは、もちろん箭内さんのためというのもあるんだけど、さいたまスーパーアリーナは2011年に……。 箭内:そう、福島の双葉町の人たちが避難生活を送った場所なんだよね。埼玉県もすごく無理して空けてくれて、一時期は町役場の機能も移していて。13年経って風化しているところもあるし、前に進むこともあれば後ろに下がることもあるんだけど、もう1回、みんなに思い出してほしくて。福島のことだけではなくて、みんなに一つずつある故郷を意識できる時間にしたいと思ってます。 乃木坂46とは対バン “故郷”でつながる各日程の見どころ 山口:素晴らしい。箭内さん、出演オファーのために僕らの練習場にわざわざ来てくれたんですよ。しかも菓子折りまで持って(笑)。 箭内:その流れで、さいたまスーパーアリーナでやることとか、対バン相手が乃木坂46ということも同時に通しちゃうっていう(笑)。 山口:乃木坂46と対バンって、すごい発想ですよね。それを聞いて「おー!」と熱くなりました。 箭内:対バンってライブハウスの言葉だからね、考えてみたら。乃木坂46のファンの人たちにサンボマスターを見てほしいという気持ちもあったし、僕は(乃木坂46とサンボマスターに)すごく通じるものを感じるんですよ。乃木坂のメンバーのみなさんも、異種格闘技戦ではなくて、自然なこととして捉えてくれてるんじゃないかなと。これは山口くんにも話したんだけど、キャプテンの梅澤美波さんのお母さん、お祖父さん、お祖母さんが福島県出身の方なんです。梅澤さん、「こういう形で福島に関われるのは嬉しいです」と言ってくれてました。 山口:嬉しいですね。僕らも、対バンさせてもらうことで勉強になることがいっぱいあると思うんですよ。初日(3月30日)の昼公演が、僕らと乃木坂46のみなさん。夜はMAN WITH A MISSION、BRAHMAN、ACIDMANのスリーマン。「箭内さん、この3組もすごいですね」と言ったら、「これはね、“MAN”つながり」って嬉しそうに言ってて(笑)。 箭内:いいでしょ。3バンドとも福島、東北に寄り添ってくれてるバンドなんだよね。 山口:そうですよね。そんで2日目(3月31日)の昼は、さだまさしさん。ここは対バンじゃないんですよね? 箭内:さださんの対バン相手は、さださんということだね。まず「20世紀のさだまさし(グレープも)」をやってもらって、その後「21世紀のさだまさし」が出てくるっていう。 山口:それもすげえな。しかもその間に立川談春さんが落語やるんでしょ? 箭内:そう。スタンディングエリアにござを敷いて、座布団持ち込みOKにします。 山口:面白い。そんなの普通、思いつかないですよ。 箭内:いきなり閃いたわけではなくて、悩みに悩んで決めたんだけどね。 山口:GLAYと怒髪天の対バンもすごいじゃないですか。 箭内:どちらも北海道出身だし、お互いにリスペクトしてるからね。増子さんもTAKUROも「対バンはしたくなかった」って言ってたけど(笑)、そこは還暦を切り札に使って、「俺のためにやってほしい」と。結局、自分が見たいものをやろうとしてるんだよね。 山口:こう言ってますけど、箭内さんは本当に控えめなんですよ。さいたまスーパーアリーナのイベントは箭内さんの還暦記念なのに、「俺のことはいいんだよ」って。 箭内:ステージにドリンク持っていったり、ケーブルの片づけとかはやるよ。 山口:そんなことまでやる主催者いないよ! 箭内:まあ還暦っていうのはあくまでもきっかけだからね。もともと記念日否定論者だし(笑)、本当はそれ自体はどうでもよくて。もちろん「これをやってほしい」と言われたら頑張りますけど……。そういえばTAKUROさんが「GLAYと箭内さんでなんか歌わないんスカ? なんなら新曲一緒に作っても楽しそうですね」と言ってくれて。曲を書いて前座をやることになったんだ。TAKUROとMICHIHIKO(笑)。 山口:ははは。僕らとも何かやりましょうよ。 箭内: 無茶振りやめて。 山口:いやいや、何度も一緒にやってるじゃないですか! 箭内:実際、中身の話はこれからなんだよね。今までは「チケットの先行予約、どうする」みたいなことばかりやってて。もう1カ月後に迫ってるから(取材は2月中旬)、何をやるかちゃんと決めていかないと。GLAYとかL'Arc-en-Cielとかって、当たり前のようにアリーナでライブをやってるでしょ? いざ自分がやると、こんなに大変なんだなって。人間って、本当に大きなものに直面すると深く考えなくなるんですよ。人間の危機回避本能なのかもね。こんな大きいイベントをやるのに頭が止まっちゃうというか。 山口:やっぱり面白いね、箭内さん(笑)。 「歳を重ねた分、愛しいものや温かいものを伝えられる」(山口) ――箭内さんは常々、「自分がやっていることはすべて広告」と話していますが、今回のイベントもそうなんですか? 箭内:そこは同じですね。さいたまスーパーアリーナでやるイベントに関しては、「故郷の広告を作りたい」ということなので。広告って対象の魅力を引き出したり、光を当てることだとも思っていて。サンボと出会った乃木坂46はいつもとは違う輝き方をするはずだし、やっぱり“広告”なんですよ。 山口:『渋谷のラジオ』でパーソナリティをやってる二瓶貴之くんは僕の友達なんですよ。そこでセレクトしたレコードをかけてるんだけど、そういうことができるのも箭内さんだからだと思いますね。 箭内:それも僕にとっては広告なんだよね。ラジオをやって二瓶くんがキラキラしはじめて、どんどん変わっていくわけじゃない? それを見るのが好きなんだよね。 ――『さいしょでさいごのスーパーアリーナ “FURUSATO”』でも、その日だけのケミストリーがたくさん起こりそうですね。 山口:そうですね。「『風とロック』がオーガナイズするとこうなるんだ」という驚きがあるだろうし、とにかくポジティブなことしか起こらないと思うんですよ。 箭内:そうだね。 山口:さっきも話に出てましたけど、出演する方々は東北にずっと思いを馳せて、いろいろな活動をしていた人たちばかりで。福島や東北の方々も観に来てくださったら嬉しいし、できれば全国から来てもらえたらなと。箭内さんは還暦を迎えて、僕も年を重ねていますけど、その分愛しいものや温かいものを伝えられるんじゃないかと思っていて。 箭内:いいこと言うね。山口隆は本当に優しくて、すごく気を遣ってくれるんですよ。こうやって協力してもらうのも申し訳ないなと思ってるんだけど、俺も背に腹は代えられないので。 山口:背に腹は代えられないって(笑)。こういう正直なところもいいんだよな、箭内さん。応援させてもらいます!
森朋之