『猫の恩返し』『夏目友人帳』『化け猫あんずちゃん』 タイプごとに異なる“猫キャラ”の魅力
トップクラスの知名度を誇る『夏目友人帳』のニャンコ先生
カッコよさ、かわいらしさとは少し違った不思議な魅力を持った猫キャラなら、緑川ゆきの漫画が原作のアニメ『夏目友人帳』(2008年~)のニャンコ先生が今はトップクラスの認知度か。妖(あやかし)が見えてしまう不思議な力を持っているため、幼い頃から親戚中をたらい回しにされていた夏目貴志が、遠縁の藤原夫妻に引き取られて一緒に暮らすようになったある日、祖母の夏目レイコが作ったという妖の名前を書いた「友人帳」を妖に狙われ、襲われるようになる。斑という名の妖もその一体だったが、貴志が死んだら「友人帳」をもらうという条件で貴志の用心棒になる。 そこでバロンのようにカッコよければキャラとして人気は出ても、グッズとして売れまくるほどにはならなかっただろう。それもこれも斑が招き猫を依り代にして、傍目には太った猫にした見えなくなってしまったため。口は悪く食いしん坊でおっさん臭さ全開のニャンコ先生だが、普段は強力な力を発揮して貴志を狙う妖たちを退け、時に巨大な狐とも犬とも言えそうな姿に戻って暴れ回る様は頼もしく、傍らにいてほしいと思わせる。 ニャンコ先生も、『妖怪ウォッチ』(2014年~)のジバニャンも『ゲゲゲの鬼太郎』(1968年~)の猫娘も、妖怪や幽霊の類として関心を持たれる一種の猫キャラと言えそうだ。西尾維新の小説が原作の「物語シリーズ」にあって、ヒロインの一人の羽川翼にとりついた猫の怪異も、そうした流れに乗る猫キャラだろう。アニメ『猫物語(黒)』(2012年)に登場して羽川の肉体を乗っ取り現れた怪異は、羽川本人とはギャップのある自由奔放な言動で観る人を魅惑する。その意味ではもっともキケンな猫キャラかもしれない。 人間に寄り添ってくれそうな猫のイメージは、どこか孤独感に苛まれている現代人を癒やしてくれるのだろう。2020年代に入ってもいろいろな作品に猫キャラが登場して癒やしてくれたり、叱咤してくれたりする。おぷうのきょうだいの漫画が原作のTVアニメ『俺、つしま。』(2020年)では、“おじいちゃん”と呼ばれる人間に、大塚明夫の渋さが炸裂した声を持ったつしまという猫が絡む展開で心をキュンとさせる。山田ヒツジの漫画が原作の『デキる猫は今日も憂鬱』(2023年)は、生活能力ゼロの会社員を巨大な二足歩行をする猫の諭吉が支える姿に、家にいてほしいと思わせる。 アンギャマンの漫画が原作のTVアニメ『ラーメン赤猫』(2024年)も、文蔵をはじめとしたラーメン店の猫店員たちの健気な働きぶりが、ブラック企業でこき使われて心を痛め、ラーメン店に転職した社珠子というヒロインを通して伝わってきてホッコリさせられる。 そんな猫漫画を原作とした猫アニメの最新作となるのが、7月公開予定の長編アニメ『化け猫あんずちゃん』(2024年)だ。いつの間にか化け猫になっていたあんずと飼い主の和尚の日常を描くシリーズだが、映画はダンサーで俳優の森山未來が演技した姿を撮影し、それをなぞって絵にする「ロトスコープ」の手法でアニメ化される。 NHKの連続テレビ小説『虎に翼』のタイトルバックでも使われている手法で、役者の演技がアニメのキャラクターに反映されて、不思議な味わいを醸し出す。肉体を駆使することにかけては群を抜く森山の演技が、あんずちゃんという化け猫キャラに乗って動き始めた時、浮かび上がるのは愛らしさか、それとも頼もしさか、はたまた面白さか。アヌシー国際アニメーション映画祭2024の長編コンペティション部門に正式出品されることも決まって、これから話題を集めそうだ。
タニグチリウイチ