監督に初挑戦・福田沙紀「頭の中のものをどんどん組み立てていく作業が楽しくて」――「大人に恋はムズカシイ」インタビュー
Z世代女子を中心に人気を集める1話3分のショートドラマ配信アプリ「BUMP(バンプ)」に、初の試みとして“1話1分”のショートドラマが登場! 「大人に恋はムズカシイ」と題された全29話にもわたる今作で、監督に初挑戦した俳優の福田沙紀にインタビュー。2020年に長年在籍した事務所を離れ、現在はフリーで活動をしている福田が新たな挑戦にかける思い、作品に込めたメッセージとは。BUMP・代表取締役の澤村直道との対談で掘り下げる。
――今作で監督を務めることになった経緯を教えてください。 福田 「元々20歳くらいの時から作品作りに興味はありましたが、そんな機会はもちろんありませんでしたし、簡単に挑戦できるものではないと思っていました。でも、30歳になる前に長年お世話になった事務所を退社し、コロナ禍を機に自分の YouTubeチャンネルを立ち上げて。今までは会社があってマネジャーさんがいて動いてくださる方々が周りにいるという環境にいたけれど、撮影も編集も『まず自分で全部やってみよう!』というふうに自分の中のシフトを変えてみたんです。それこそカット割や音楽の付け方、独学でやっている韓国語や日本語の字幕をつけるなど、映像制作の過程を実際に体感してみると、すごく楽しくてワクワクして。そんな時に、同じ熊本県出身で、BUMPで作品作りをされている山口龍大朗監督からお声がけいただき、澤村さんともお話しして、今回の機会をいただいたという形です」 ――長年俳優として活動する中で、裏方に興味を持ったきっかけのようなものはあったのでしょうか? 福田 「デビュー以来、演者という部署で作品作りに関わらせていただきましたが、現場に行けば行くほど、シンプルに『1から作品作りの過程を見てみたい』という気持ちが芽生えていきました。特に大きな刺激を感じた作品は『ライフ』(2007年/フジテレビ系)でしょうか。例えば、歩(北乃きい)が靴箱から靴を取って、扉を閉じたら後ろに突然、私が演じるいじめ加害者の愛海がいる、といったゾッとするようなカメラワークや演出が印象的で。監督やカメラマンさんをはじめ、すべてのスタッフさんの集大成、総合芸術ですよね。現場でそういうワクワクを積み重ねる中で、自分の中のクリエイティブへの気持ちがどのように存在しているのかも確かめたくなったし“ゼロイチ”を作るということを知りたいなと思うようになりました」 ――その念願がかなって、今作で監督に挑戦することに。脚本家の灯敦生さん、俳優陣を含め、若いクリエーターの方々とのお仕事だったかと思いますが、作品作りの現場はいかがでしたか? 福田 「もうすぐデビュー20周年ですが、今までどうしても現場では自分は周りより年下という感覚があったのですが、今回は、周りのスタッフさんに 『あのドラマ見てました』と言われるなど、以前出演していた作品の印象から入られることが不思議な感覚でした。そういう言葉がシンプルにうれしいですし、スタッフの皆さんとどれだけいいものを作れるか、気合が入りましたね。最初はBUMPさんからいくつか企画をご提案いただいて、それをブラッシュアップしていく作業でした。脚本は灯さんにベースを作っていただいた上で、監督として書かせていただいた部分もあります。演者として一番やりやすい流れ、心情の部分の交通整理をさせていただくような形です。最初は1話3分の全10話予定でしたが、進んでいくうちに市場の変化があったようで、澤村さんから『できれば1話1分、30話を目指そう』と言われて、もうびっくりでした(笑)。『ちょっとちょっと! 聞いてた話と違うじゃない!』みたいな(笑)。要は、1話の中で“最初の引っかかり”と“次が見たくなる最後のフック”を元々は10話分、最低でも20個は必要だと思って考えていたところが、30話になったことで、60個作らなくちゃいけなくなったんですよ(笑)。その時はちょっと焦りましたね」 ――3分尺を1分尺に変更するに至る“市場の変化”というのはどういうところだったのでしょうか? 澤村 「ショートドラマの市場は中国がすごく進んでいて規模も大きいのですが、その中国の作品は大体1分半とかで展開されているんです。うちは3分が主ですが、その3分の中の1分間とかを切り抜いてSNSのショートに投稿していたりしたんですよ。そしたらSNSで最初にそのショート動画に触れて、興味を持ってBUMPに入ってくれた方から『1分の方が見やすい』という声があったりして。もう3分でも長いんですよね。僕が事業を立ち上げた際も、本当は1話1分を目指していましたが、脚本を作る中で、なかなか難しいなと感じて3分にした経緯があったので、この作品で1分に挑戦してみたいですという話をさせていただきました。沙紀さんにも柔軟に対応いただいて…」 福田 「『やんなきゃ!』って感じでした。結局、どんなお仕事でもいろんな変更は絶対出てくるし、それにどれだけ柔軟に対応していいものを作れるかじゃないですか。私はどちらかというと、そういう方が燃えるタイプなんですよね。「初監督なのに聞いていたのと違う! どうしよう」とも思いましたが、そういう制限の中でより良いものを! というところにとにかく燃えました」 ――1分ドラマだからこそ必要になる、演出の工夫はどんなところでしょうか? 澤村 「“間の詰め方”といった部分は、沙紀さんはすごいなと思いました。映画やドラマをやられてきた方だと、そのルールの中で最適なものを作りたくなりがちなんですが、ショートドラマって映画やドラマとは競技が別物なので、柔軟性を持つのは結構難しいんです。自分が作り上げてきたものを壊しながら新しいものに挑戦しなきゃいけないと思うんですが、沙紀さんは現場でも『これは長すぎるよね』とご自身から提案してどんどん間を詰めていくんです。ほかの監督って結構、間を取りたがるんですが、沙紀さんは逆で。普通は、大事な間や感情のつながりが飛んじゃったりするので、短さを追求するとチープになりがちなんです。でも、沙紀さんはそこを担保しながら、ただ長くない、くらいの絶妙なバランスを作ってくださいました」 福田 「そりゃ、役者側からすると“間”って大事ですよ。気持ちの流れというものがあるので。でも自分の中になんとなくのテンポというのが感覚としてあって、それさえあまりに崩さなければ大丈夫だと思って演出していました。脚本についても、私も役者をやっているからこそ、セリフの順番や言い回しなどの気持ち悪さや引っかかる部分をできるだけなくしてから俳優部に脚本が渡るように交通整理をさせていただけたかなと思っていて。灯さんとも確認しつつ、一緒にアプローチするのがすごく楽しかったです。それで撮ってみていざ編集段階に入った時も『あ、いける』と思って。短いとも長いとも感じず、成立していたなと。自分の頭の中のものをどんどん組み立てていく作業がめちゃくちゃ楽しく、撮影期間は5日間くらいでしたがずっとアドレナリンが出ていて、集中が切れる瞬間も全くなくて。むしろ“最強モード”というか。自分が引っ張らなくてはという気持ちもあり、全力で楽しみました」