日本音楽コンクール1位 竹田理琴乃×栗原壱成「受賞の瞬間は……」
国内最高峰の若手音楽家の登竜門として知られ、今年で93回目を迎える「日本音楽コンクール」が今年も開催され、計6部門の入賞者が決まった。各部門の受賞者は2025年3月に開催される受賞者発表演奏会に出演する。ピアノ部門で第1位に輝くと共に聴衆賞にあたる岩谷賞を受賞した竹田理琴乃とバイオリン部門第1位の栗原壱成が受賞の喜びを語ると共に受賞者演奏会、そしてこれからに向けての意気込みを明かしてくれた。 【全ての写真】竹田理琴乃、栗原壱成のソロカット ――本選終了から少し時間が経ちましたが、受賞結果に対してご家族の反応や周囲の反響などはいかがですか? 竹田 私は日音コンへの出場が11年ぶり(※前回出場時は3位入賞)だったんですが、それだけの時間が経っているので周りは「もう再挑戦することはないだろう」と思っていたようで、「おめでとう」という言葉と同時に、(今回の出場に)「びっくりした」というお声が凄く多かったです。でも私自身もまさか再挑戦する日がくるとは夢にも思っていなかったので、自分としてもいまだに実感がわかなくて……(笑)。「おめでとう」と言われるたびに「あ、1位をいただけたんだ」と嬉しくなっています。いつも応援してくださる方や地元(金沢)の方に喜んでいただけたことも本当に良かったです。 栗原 僕もこれまでご支援いただいた、お世話になってきた方たちが喜んでくださったことがすごく嬉しかったです。僕も周りからは「もう出ないだろう」と思われていたところがあって、今回がほぼラストチャンスだと思っていました。実際、予選当日の朝まで、受けるか受けないか悩んでいたくらいだったんですけど(苦笑)、周りのみなさんもホッとしたような感じで「本当によかったね」、「やっと獲れたね」という感じです。家族も日本でのコンクールはもう心のどこかであきらめていたところがあったみたいで、日音コンを受けることも言ってなかったんです。だから喜んでくれていると思います。 ――当日まで受けるかどうか悩んでいたんですか? 栗原 その前のコンクールであまり結果が振るわなくて、そうなると毎回「もうやめる」とかそういう話を言い出すんですね……(苦笑)。前日の夜まで先生に相談していたんですけど、一度寝て、朝起きて「どうする?」と言われて、せっかく舞台で弾かせていただける機会をいただけるんだからやってみようと思いました。逆にそんな気持ちでリラックスして臨めたのが良かったのかもしれません。 ――予選を通過して、本選当日はどのような気持ちで臨まれたんでしょうか? 竹田 私は11年前の本選の演奏に心残りがあったので、今回「悔いのないように」という気持ちもありましたし、そもそも本選で演奏させていただけるというのが本当にありがたいことなので、緊張ももちろんありましたけど、感謝の気持ちが大きかったです。この11年間で私も「もうやめよう」と思うこともあったし、先生や家族、周りの方々に支えてもらってここまでやってこられたので、あの舞台に立てるだけで感謝だなと。 ――本選ではリストの協奏曲第2番を演奏されました。 竹田 もちろん好きな曲でもありましたし、この曲はリストがオーケストラとピアノの融合を目指して作った曲なんですけど、ピアノは普段はオーケストラの一員にはなれないので、みんなで音楽をつくり上げていくところに憧れもありました。交響詩のような作品をオーケストラと一体になって演奏できたらいいなという気持ちでこの曲を選びました。 本番は緊張して、あんまり覚えてないんですけど……(笑)。オーケストラのみなさんもマエストロも支えてくださって、緊張さえも楽しめたのかなと思います。 ――2度に及ぶカーテンコールはいかがでしたか? 竹田 すごく幸せでした(笑)。 ――第1位という結果に加えて、聴衆が選ぶ岩谷賞も受賞されました。 竹田 受賞の瞬間は怖くて見られなくて……(苦笑)、遠くのほうで恐る恐る見ていたんですけど、知り合いが「結果出てるよ! 1位だよ!」と教えてくれて「ウソ!?」という感じで、周りにいらしたみなさんが「おめでとう!」と声をかけてくださって、信じられない気持ちでした。「ピアノが好き」という気持ちを大事にここまで続けてきてよかったなと思いました。加えて、音楽は聴いてくださる方がいてこそのものなので「聴衆賞」をいただけたのは本当に嬉しかったです。 ――栗原さんは本選にはどのようなお気持ちで臨まれましたか? 栗原 もう相変わらず(苦笑)、そわそわした気持ちで……実は最後に弾くというのが初めての経験だったんです。普段、一番最初を引いてしまうことが多いんですけど、今回は最後なので余裕があると思っていたらそうでもなくて(笑)、係の方から「もうすぐです」と声をかけていただいて慌てて「ちょ、ちょっと待ってください!」って感じで。まあ、いつも通りといえばいつも通りなんですけど。 ――楽曲はチャイコフスキーのバイオリン協奏曲 ニ長調 作品35.でした。 栗原 バイオリンの曲の中で最も有名な曲のひとつと言っても過言ではないですが、力強く弾く方が多いんですね。でも、自分はチャイコフスキーの繊細かつ優雅なところや品格に満ちているところに焦点を当てて弾きたいなと思って選ばせていただきました。 演奏の後は、これもいつものことなんですけど、怖くて仕方なくて逃げだしたくなるんですね。「なんてひどい演奏をしてしまったんだ……」と(笑)。 竹田 メチャクチャわかります(笑)! 私も毎回「どうしてこんなに弾けないんだ……」ってなります。 栗原 終わった瞬間に「もうダメだ」「バイオリンやめよう」って……(苦笑)。おそるおそる発表を見に行って、1位をいただけたと知っても全然実感がわかなくて……。ただ、お世話になったみなさんに少しは恩返しができたかなと嬉しかったです。 ――審査員の中に長く師事されてきた清水高師先生がいらっしゃいましたが、何かお言葉は? 栗原 清水先生は10歳の頃にお会いして以来、これまでで一番お世話になった先生のひとりです。当日は話す機会はなかったんですが、後日、反省点などをいただきました。今回、こうして結果が出せたことで「君の音楽がやっと報われたような気がする」とおっしゃっていただいて、それが一番嬉しかったです。同時に「あまり喜びすぎずに。これからが本当のコンクールだ」、「常に努力を絶やさないように」と仰いました。 ――今後やってみたいことやこれからの活動に向けてのお気持ちを聞かせてください。 栗原 年齢的にはコンクールを受けることができるちょうど瀬戸際なので、いまは受けられるものは受けてソロだけでなく、室内楽やオーケストラにも挑戦して、この先、年齢を重ねていくにつれて、より熟していくような音楽家になりたいです。 竹田 賞をいただいた後も変わらず、人の心に残る、何かを感じてもらえる演奏をできたらと思っているので、さらに突き詰めていきたいと思います。私もソロだけでなく、室内楽、オーケストラといろんなことに挑戦したいです。今回、勇気を出して一歩を踏み出したことで、少しだけ前へ進めた気がするので、これからも思い切っていろんなことにチャレンジしていきたいです。 ――受賞者発表会に向けての意気込みを最後にお願いします。 竹田 コンクールではリストの2番を弾きましたが、受賞者発表(演奏)会では1番を弾く予定です。最初からすごくテンションが高い華やかな作品なので、みなさんと一緒に楽しめたらと思っています。 栗原 僕はシベリウスのバイオリン協奏曲を演奏する予定です。これもまたバイオリンの中で最も有名な曲のひとつですが、忠実に、でも自分なりのコンセプトを持って演奏できたらと思っています。 取材・文・撮影:黒豆直樹 <公演情報> 第93回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会 公演日程:2025年3月4日(火) 会場:東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル