『Eye Love You』切なさが加速 “テオ”チェ・ジョンヒョプד花岡”中川大志の軌跡を振り返る
テオ(チェ・ジョンヒョプ)は侑里(二階堂ふみ)が思った通りの人だった。いや、それ以上だった。 【写真】絵本『心が聞こえる少女』を読むテオ(チェ・ジョンヒョプ) フードデリバリーのバイト先で「能天気」だと言われたというテオにその意味を聞かれ、侑里は「前向き」だと言い換えた。「能天気」は通常「何も考えていない」という意味で使うことがほとんどだと知ったテオは、彼女のことを“やっぱり素敵な人だ”と思い返す。 テオは何も考えていないわけでも、若さゆえの無敵感で向こう見ずに侑里のことをただただ好きだと言っているだけでもなかった。全てわかっていたのだ。女性投資家のミン・ハナ(玄理)が描いた『心が聞こえる少女』という絵本の主人公と同じ力を侑里が持っていることも。その主人公の愛する人に悲劇が訪れ、帰らぬ人になってしまう結末も。 最終話を目前に控え、『Eye Love You』(TBS系)は衝撃の事実が明かされ幾重にも切なさを帯び始める。 自分だけが悩んでいるかに思えたことを、実は相手はすでに知っていた。自分は相手の心が読めると思っていたが実際は何もわかってはいなかった……と侑里が愕然とする姿には既視感がある。そう、専務の花岡(中川大志)の自身への恋心に気づいた瞬間とよく似ているのだ。 人に興味がなさそうで、一定の距離感を保ってくれそうだからこそ一緒にキャンパスライフを過ごすのも、ビジネスを創業するのにも、自身の“テレパス”の能力を意識することなくいられた花岡。侑里は花岡に“必要以上には踏み込んでこない”安心感を抱いていたのかもしれない。もちろん最初はそんなクールで我関せずなスタイルの花岡が一緒にいるには気を使わずストレスフリーだったのだろうが、その中にある花岡の優しさや誠実さにどんどん侑里も心を許していったのだろう。だからこそ彼女らしいビジネスが展開できていたのだろうし、そんな侑里の世界をそっと見守りサポートしてくれていたのが花岡だった。 ●侑里(二階堂ふみ)を包み込んだテオ(チェ・ジョンヒョプ)の暖かさ そこから突然現れたテオは、侑里の守られていて安全には違いないけれど、少し固定されてもいる世界を、どんどん拡張し揺るがし、思いも寄らない場所に連れ出しては彩り豊かなものに変えていった。侑里の私生活も仕事もどちらにも新参者として登場したテオは、ただひたむきに彼女に好きの気持ちを伝え続ける。強引にも思えるが、それが彼の独りよがりに映らなかったのは、侑里がどんなリアクションをしたって全てを包み込んでくれるような毛布のような安心感が彼にはあったからだろう。 彼の生き生きした瞳と全身から真っ直ぐに伝わる自分への愛情、周囲やラッコへの向き合い方を見れば、その心の声を聞くことに恐怖心よりも興味が勝るのも頷ける。きっとそこには優しい世界が広がっているのだろうと思えるし、何より何の保証もないけれども飛び込まずにはいられなくなるのが恋だとも言える。相手のことが少しでも知りたくて、その心が覗いてみたくなる。もし、そこで自分の予想していたものと違う言葉が聞こえても、彼ならば何か理由があるに違いないと思える相手こそが好きな人で特別な人だということだろう。 そしてテオがこんなに心優しき青年だからこそ、ミン・ハナも自分とかつての恋人のような運命を辿ってほしくはないと願わずにはいられないし、父親代わりの大学教授・飯山(杉本哲太)がどうにか2人を別れさせようとするのもわからなくはない。あんなに曇りなき眼を見せるテオがいない未来をどうにか未然に防げるのならば、心を鬼にして自ら別れを切り出そうとする侑里の気持ちも。だって彼は、全てを知った上でもあんなふうに口角を上げて笑って優しく世界を眼差せるのだから。そんな彼に悲しい世界を見せたくないと、これ以上、心引き裂かれるようなことに巻き込まれてほしくはないと思うのが自然だろう。 そして侑里にテオへの気持ちに素直に突き進んでほしいと、例の後出しじゃんけんで初めて勝って2人の背中を押した花岡が、侑里よりも先に絵本の結末を知ってしまうところもまた輪をかけて本作の切なさを加速させる。侑里の幸せをただただ願って自分が身を引くことを決めた花岡が、どう転んだって好きな人が傷つく未来が不可避に思えるこの事態をどう受け止めているのか。 「私の恋人はこの少年と同じようにお星さまになったの、私が愛してしまったせいで」 「この世界にはね、決して愛してはいけない人がいるの」 幼きテオにミン・ハナが語り掛けたこの言葉を、侑里とテオなら、そして彼らの周囲ならば塗り替えてくれるに違いないと信じたい。「私が愛してしまったせいで」なんてあまりに悲しい因果を結論づけるミン・ハナの自責の念がどうにか解かれる日が来ますように。
佳香(かこ)