人気の小泉か経験の石破か──自民党「生まれ変わり」への本気度を問う
「38年間の政治生活の集大成、最後の戦い」「政治は変わる、自民は変わる。実現できるのは自分だ」──。石破は8月24日、地元の鳥取県八頭町の神社で総裁選への立候補を正式表明した。 5回目の総裁選挑戦となる石破は元首相・安倍と対立し、長く冷や飯を食わされてきた。政権批判を辞さず、自民党内でも苦言を吐くことから「党内野党」とも言われる。もっとも、幹事長をはじめ、政調会長や防衛相、農水相など要職を歴任し、経験と実績は十分。安全保障問題のエキスパートとして知られる政策通だ。 ただ、派閥維持や国会議員との仲間づくりは苦手なようで、かつて存在した石破派は他派と掛け持ち可能なグループとなり、やがて解散。石破自身、「国会議員の理解を得る努力を十分してこなかった」と出馬会見で認めた。総裁選でも党員・党友票はある程度の獲得が見込めるが、国会議員票は未知数だ。 一方の小泉は、8月10日配信のラジオNIKKEIのポッドキャスト番組でこう語った。 「自民党は政治不信を招いている張本人。自民党自身が政治不信を払拭できるよう自己改革を進めるべきだ」「政治とカネの問題は総裁選で最大のテーマの一つ。ここで自民党が変わると示すことができなければ(いけない)。『新しい顔』にしたら政治とカネの問題は忘れてもらえるなんて大間違いだ」 この時はまだ、総裁選出馬の意向については明言していなかった。政治とカネの問題に真剣に取り組む姿勢はうかがえた。 小泉は9月6日の出馬表明会見で、政策活動費の廃止などを掲げていたが、政治資金改革などそれほど大きなサプライズはなかった。街頭演説で引っ張りだこの、その発信力には定評があるものの、これで「小泉ブーム」が起きるかどうかは分からない。 小泉の経験不足による力量・能力を不安視する声は根強い。環境相時代の小泉が、気候変動問題への取り組みは「セクシーでなければならない」と発言したことは波紋を呼んだ。ネット上では過去の数々の発言が揶揄され、党内でも小泉への期待と不安は交錯している。 政治アナリストの伊藤惇夫は小泉について、「かつては『天才子役』だった。今回、大人の俳優に脱皮できたのかどうか、よく見極めなければならない」と語る。 自民党若手議員らは、世代交代による「刷新感」をアピールしている。これに関し、伊藤は「『刷新』ではなく、『刷新感』だけなのか。自民党には『政治刷新本部』がありながら、何も刷新しなかった。抜本改革を求める声さえなかった。新総裁が誕生したとしても、自民党の何が変わるのか」と批判的だ。「人気だけでいいのか」とも強調する。 <裏金議員をめぐるジレンマ> 総裁選への立候補が相次ぐなか、裏金事件の対応が焦点となってきた。 8月19日、総裁選出馬表明のトップを切った衆院当選4回の若手ホープ、前経済安全保障担当相・小林鷹之(49)は「自民党は生まれ変われることを証明したい」とアピールした。だが裏金事件の再調査には否定的で、党改革への姿勢も消極的に感じられた。既に「裏金対応に甘い」と指摘されている。 石破は出馬表明の際、裏金議員に対する選挙での党公認の是非について「公認にふさわしいか、議論は選対委員会で徹底的に行われるべきだ」と、非公認の可能性も示した。しかし、安倍派内から反発が出ると、「新体制になってどうするのかを決める」と発言をトーンダウンさせた。 デジタル相・河野太郎(61)は出馬表明では、政治資金収支報告書への不記載があった議員に対し、不記載額の「返還」を求める意向を示した。これは「金を返して終わり、万引して盗んだ物を返したから無罪放免、という話でもない」と国民民主党代表・玉木雄一郎がすかさず批判した。小泉は裏金議員の公認については、説明責任の取り組みなどを勘案し「新執行部で厳正に判断する」と述べるにとどめた。 実際、事件の再調査と裏金議員を非公認とする方針を打ち出すのは、現状を考えると相当に難しいだろう。そこまでやると、投票可能な70数人の裏金議員の反発は必至であり、総裁選での国会議員票を減らす懸念がある。