eスポーツ×ストリーマー戦略の最適解? 『Riot Games ONE 2023』に見る演出の重要性
「eスポーツ」と「ストリーマー」の組み合わせ。 いまのユース世代にとっては、最強の関心ごとの1つだろう。 【写真】『Riot Games ONE 2023』での盛り上がりの様子 ただ、その一方「数字を持っているコンテンツ同士」であるが故に、雑に扱われすぎていると感じる場面もある。 筆者も数々のeスポーツイベントを取材をするなかで「ゲームや演者の扱いが雑すぎる」と感じるイベントも多くあった。 その点において、今回の『Riot Games ONE 2023』は非常に配慮が行き届いているように感じたので、イベントの内容を振り返りつつ「eスポーツ」×「ストリーマー」のイベントを成功させるためのポイントを整理した。 ■『Riot Games ONE 2023』とは 『Riot Games ONE 2023』とは、Riot Games主催のオンライン・オフライン統合型イベントである。 10月後半から約1か月、配信上でさまざまなオンラインイベントが行われ、グランドフィナーレとなるオフラインイベントは12月2日、3日にKアリーナ横浜で開催された。 主に以下のような『League of Legends』『VALORANT』によるエキシビションマッチが中心とされていた。 <The k4sen> 『League of Legends』で行われる人気ストリーマー同士の対決イベント。下記の2チームによるエキシビションマッチが行われた。 ●Team the k4sen TOP:うるか JG:たぬき忍者 MID:k4sen ADC:なぎさっち SUP:しゃるる ●Team the SHAKA TOP:葛葉 JG:JapaneseKoreanUG MID:SHAKA ADC:象先輩 SUP:らいじん <THE UNLOCKERS> 『VALORANT』で行われるストリーマーチーム(UNLOCKERS)と現役プロ混合チームによる対決イベント。ストリーマーチームが達成したミッション数(対戦の勝利など)に応じて、オリジナルTシャツが来場者に抽選で配られた。 ●DAY1 ・ UNLOCKERS:Clutch_Fi、mittiii、MOTHER3、鈴木ノリアキ、TORANECO ・ プロmixチーム:suygetsu、CLZ、makiba、SyouTa、善悪菌 ●DAY2 ・ UNLOCKERS:ade、rion、SurugaMonkey、TENNN、夢野あかり ・ プロmixチーム:yay、Art、Reita、xnfri、Zepher <PRO INVITATIONAL> 『VALORANT』で行われる、国内外の有名eスポーツチームによる招待制エキシビションマッチ。招待チームは、Bleed Esports、DetonatioN FocusMe、Natus Vincere、ZETA DIVISIONであり、それぞれの対戦組み合わせは下記のとおり。 ●DAY1 ・BLD vs NAVI、DFM vs NAVI、DFM vs ZETA ●DAY2 ・ZETA vs BLD、DFM vs BLD、ZETA vs NAVI ■「eスポーツ」×「ストリーマー」イベント成功のポイント 今回は、特にファン目線での企画が多かった「The k4sen」に注目した。筆者が(超個人的に)感じたポイントを記述する。 <ライバル同士の直接対決 :「ファンが見たいもの」を見せる> 今回の「The K4sen」では「ファンが見たいもの」を実現するための工夫が多くあったように思える。 『League of Legends』に明るくない方向けに少し説明をすると、このゲームは5人vs5人のチーム戦であり、各人が5つのロール(TOP、JG、MID、ADC、SUP)から1つを担当する。 ロールごとに、やるべきことは異なり、それぞれ特化した練習をすることになる。つまり、事前に準備しておく必要があるということだ。 誰がどのロールをやっても自由なので、それぞれが普段から練習しているロールをやれば良いはずなのだが、「The k4sen」では明らかに「魅せること」に特化したロール選択になっていた。 特に注目なのが、TOPにうるかと葛葉が配置されたことだ。 TOPというロールは(試合序盤から中盤に掛けて)チームとの連携が少なく、試合全体としては注目度が下がりがちなポジションである。しかし裏を返せば、ガチンコの1vs1の戦いが実現しやすいともいえる。 「ロールの特性を逆手に取った」というのは言い過ぎかもしれないが、結果的にVTuber同士(うるかは元プロeスポーツ選手だが)の直接対決をたっぷりと見られた。これはファンにとっては大きな見どころであり、見たかったコンテンツの1つだろう。 同じようにMIDでは、k4senとSHAKAによるリーダー同士の直接対決となっていた。 MIDはTOPと異なり、序盤から試合全体に与える影響が大きく、MID同士の勝敗がそのまま試合結果に直結するともいわれている。 会場にも、k4senとSHAKAを目当てにしたファンは多く、最も注目される2名に最重要ロールを担当させたのは、良い判断だったといえるだろう。『League of Legends』というゲームの構造を上手く利用した仕掛けといえる。 <らいじんのガチ切れ演出:「分かる人には分かる」の追求> Day1の「The K4sen」のエンディングトークにて、特別な演出があった。 勝敗がついたあとのトーク中に、敗者チーム陣営の1人であるらいじんがキレて、ステージから降りてしまったのだ。 いまやキレ芸が持ち味となっているらいじんではあるものの、会場内は放送事故とも取れる雰囲気に。演出なのか、ガチなのか、微妙に判断がつかない最中、ステージが暗転。その後、大型スクリーンに映し出されたのは、らいじんとしゃるるがやり取りをする映像(※事前に収録されたもの)。 らいじんは映像内で「時を戻す」スキルを発動して、先ほどの“負け”試合をなかったことにしたのだ。すべては後日(Day2)の「The K4sen」につなげるための演出だった。 「ただの茶番」と一蹴するのは簡単だが、この演出はストリーマーの個性を活かしただけでなく、イベント全体の日程を上手く利用したものだった。 というのも、今回の『Riot Games ONE 2023』は2日間実施される。つまり「The K4sen」も2回行われるのだが、どちらか1日だけに来場するファンもいることになる。 今回の演出は、それぞれの試合を「新鮮な気持ち」で見てもらうための工夫であり、ファンサービスだったのだろう。 『League of Legends』に詳しくない人からすると、唐突な演出に思えるかもしれないが、このゲームには「時を戻す」能力をもつキャラクターが存在しており、ファンにとっては「ああ、エコーのクロノブレイクね」と一瞬で理解できる。 さらにマニアックなことに、スクリーンに映し出された映像は、エコーの紹介トレーラー動画をオマージュしたものだった。 まさに「わかる人だけにわかる」演出だったといえる。 ■最後に 「ただ単に人気コンテンツと人気ストリーマーを集めればよいわけではない」 主催であるRiot Gamesはそれを分かっているのだろう。今回の『Riot Games ONE 2023』からは「ゲームが好きであればあるほど楽しめるイベントを作る」という意気込みを感じた。 ますます進化を続ける『Riot Games ONE 2023』。今回見逃してしまった人も、次回はぜひ現地に足を運んでほしい。
小川翔太