【山中伸弥×羽生善治】2人の天才が語り尽くす「ブレイクスルー」が起きたあとの「未来」
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第15回 『いま日本に必要な「アインシュタイン型の天才」・・・永世七冠・羽生善治も困惑する、「藤井世代」の衝撃の実態』より続く
クリエイティビティは衰える
山中 年齢で言えば、若いほうが頭は絶対に柔らかいですよね。アイデアにあふれていると思います。日本では仕組みとして大学院生にならないと、いわゆる「研究」はできないけど、海外だと飛び級で、もう17、8歳で大学院に入る人もいます。 羽生 アイデアの豊かさとは別に、何度も繰り返して検証していくとか、一つのものにまとめる力はどうでしょうか。 山中 その辺は、やっぱり経験が必要になりますね。ただ、50代半ばになってすごく感じるのは、20代、30代のころに比べると、ひらめきとかクリエイティビティは確実に下がっているということです。昔だったらどんどんアイデアが出てきたのに、残念ながら今は昔ほどには出てきません。ひらめきやクリエイティビティは、カーブを描いてどんどん下がっています。 ただ一方で、いろいろな経験を積んでいますから、悪知恵だけはどんどん(笑)……悪知恵というと言葉は悪いですが、経験に基づいた知恵はどんどんついてきているので、差し引きどうなのかはわかりません。
アイデアと年齢の意外な関係性
山中 役割交代と言うんでしょうか。以前はアイデアを出すのは自分の役でした。手先もいちばん器用なころで、自分で実際に実験して、自分でデータを出していました。今、そういうことは若い人にどんどん任せて、僕は戦略を練るとかマネージメントをするほうに変わってきつつあるんです。僕は今、50代半ば。羽生さんは――。 羽生 40代半ばです。 山中 まだまだ若いですね。僕もそのころはすごく元気だったんです(笑)。 羽生 先生は一年に何回もフルマラソン、走られているじゃないですか(笑)。 山中 今も鴨川をよく走りますけど、僕はスポーツでもプレーヤーにしかなったことがなくて、監督とかコーチはしたことがないんですよ。でもプレーヤーのほうが楽ですね。自分さえ一生懸命走れば、タイムはよくなっていきます。走るのはしんどいけど、努力さえしたら、ほかの人に頼らなくても成績は上がっていきます。実験もそうです。自分さえ一生懸命に実験したら、ある程度成果が得られます。 でも今は、他の人にやってもらわなければいけません。それも一人ではなくて、たくさんの人にやってもらう必要があります。これは本当に難しいですね。