「スター不在」の大阪桐蔭 近江に「束になって」雪辱 センバツ
第94回選抜高校野球大会は31日、決勝で大阪桐蔭が近江(滋賀)を降し、4度目の春の頂点に立った。 【写真一覧】毎日新聞記者が選ぶベストナイン 17点リードで迎えた九回裏、1死一、二塁。最後の反撃を試みる近江に観客席から手拍子が湧き起こる。大阪桐蔭が併殺に仕留め、試合終了のサイレンが鳴り響くと、星子天真(てんま)主将(3年)はマウンドに駆け寄り、仲間とともに人さし指を天に突き上げた。「スター不在」と呼ばれたチームが先輩たちを超えた瞬間だった。 昨秋の近畿大会や明治神宮大会を制覇しても星子主将は「力が足りていない」と繰り返してきた。謙遜ではない。今のメンバーの中で、2年生の時から活躍が有望視されていたのは松尾汐恩(しおん)選手(3年)だけ。2人のプロ野球選手を輩出した1学年上の世代と比べると、個々の能力は劣っていた。紅白戦をやると、その差は歴然だった。 しかし、そんな先輩たちが大舞台では結果を残せなかった。2021年夏の甲子園。大阪桐蔭はくしくも近江との2回戦で敗退した。スタンドで観戦した星子主将は「先輩たちでも負けるんだ」と大きな衝撃を受けたという。 当時の主将で、今はオリックスで活躍する池田陵真さん(18)は「個々の力に頼りすぎ、チーム力という点で課題を抱えていた」と振り返る。 大阪桐蔭では例年、夏の大会後に西谷浩一監督と新3年生が話し合って次の主将を決める。対照的な2人の候補を巡って野球部は割れた。2年生当時から夏の甲子園でベンチ入りするなど実績があり、「背中で語るタイプ」(池田さん)の松尾選手。一方の星子選手は仲間と対話を重ねることで同級生をまとめてきた。「力があっても勝てない」という教訓を踏まえ、星子選手が主将に選ばれた。 発足した新チームの合言葉は「束になって泥臭く」。個人の力量不足を補うために、「粘り強く負けないぞという気持ちを持ち続けた」と振り返る。心掛けたのは仲間への伝え方だ。頭ごなしではなく、何が必要なのかを一緒に考えることで全員が当事者意識を持つようになった。池田さんは「行動を示してチームをまとめようとする自分とは対照的な主将」と話す。副主将を務める吉沢昂選手(3年)も「上からではなく、横から人を巻き込んでいくタイプ」と信頼を寄せる。 星子主将自身、168センチと小柄だったこともあり、冬場は体作りと基礎練習を重視し、「日本一の練習をしよう」と仲間に呼び掛けた。そうして磨いた「つなげる打撃」が甲子園という大舞台で躍動し、4年ぶりの紫紺の大優勝旗をたぐりよせた。 試合終了後、星子主将は「優勝できたことを過信ではなく、自信につなげていきたい」と冷静に話した。視線の先にあるのは史上初となる3度目の春夏連覇だ。【隈元悠太】