一人だから食べるものなんてなんでもいいんだけど…そんなことを考えたらまた味がわからなくなった【作者に聞く】
XやInstagramでイラストや漫画を発信しているせきやよい(@sk_yayoi3)さん。2020年からイラストレーターとして本格的に活動を開始し、今ではループアニメーションやGIF動画などのショートアニメーションのほか、MV用イラストや書籍の装画、挿絵、ジャケットイラストの制作、個展開催、グッズ販売など幅広く活躍。温かさが伝わってくる人物の表情や柔らかい色使いが魅力で、2024年に公開した漫画「日暮夕子は今日も想い出を盗る」もファンから好評だ。 【漫画】「日暮夕子は今日も想い出を盗る」を読む ウォーカープラスでは「日暮夕子は今日も想い出を盗る」を、せきやよいさんのインタビューとともにご紹介。こだわりポイントやお気に入りのシーン、見どころや制作の裏側、作品への思いなどを、連載として全5回でお届けする。 今回は、主人公の日暮夕子がとあることをきっかけに、大事にしているカメラと大きめのリュックに入る分くらいの荷物だけを持って田舎の町に引っ越してくるところから始まる。ご飯の買い物で訪れた商店街は旬の野菜や新鮮な魚の匂い、店の人と客のなんでもない会話であふれている。そんななか、カメラを持つ夕子は自分のことを知らない人たちの想い出を盗る―。 ■人と接するのが怖くても撮りたい気持ちは消えなくて ――普段はどのような作品を描いていますか? 「日常生活を描くことが多く、特に海の景色が入ったワンシーンを描くことが好きです。海を眺めることが好きなので、自分の日常生活の一部がイラストとして表現されることも多いですね。他にも猫(動物)が大好きなので、部屋で過ごしているイラストなどでよく描くモチーフになっています」 ――「日暮夕子は今日も想い出を盗る」を描くことになったきっかけを教えてください。 「もとになったのは、自主制作の『架空装丁シリーズ』から生まれた作品です。架空の書籍の表紙を作るのが好きで、定期的に作ってSNSに投稿しているのですが、本作はそのなかの一つでした。そのイラストを編集者さんが見てくださり、お声がけいただき、そこから漫画を描くというきっかけにつながりました」 ――「日暮夕子は今日も想い出を盗る」1話のお気に入りシーンを教えてください。 「1話のお気に入りのシーンは最初の電車の中や、電車が山の中を走っているシーンです。モデルとして地元のローカル線のワンマン電車をイメージしています。昔、勤めていた職場がかなり遠く、電車で往復2時間の通勤をしていたのですが、まさにこんな山の中を走っていました。晴れた日は木漏れ陽が綺麗だったのを思い出しながら描きました。通勤途中にほぼ無人に近い駅があり、夕子が到着した駅はそこをモデルにしています。アパートの部屋の中を歩く際に効果音でギシギシと音をつけているのですが、舞台となるアパートは木造の古い建物で設定しているので、さりげないところでちょっとした演出をしているのも見ていただけたらうれしいです」 ――2話の見どころを教えてください。 「散歩が好きな夕子が買い物がてらに初めての土地を歩くのですが、山を少し降りると誘惑がたくさんあって…。2話で注目してほしいのは、通りかかる商店街の風景です。季節を意識した旬の食べ物や下町のイメージで設定した町の雰囲気にはこだわったので、一緒に散歩をしている気持ちになってもらえたらうれしいです。自分自身が散歩が趣味と言っていいくらい大好きなので、夕子に重ねていますね。寄り道もついついしがちです。道中に出てくる団子屋さんは商店街を設定した当初から絶対に描くと決めていました。幼少期に親戚の家に行く途中大きな団子屋さんがあり、お店に寄るときは毎回みたらし団子と醤油団子(海苔付き)を買ってもらいました。その記憶をたどり、焼きたてのお団子の匂いを思い出しながらこのシーンを描きました」 ――3話のこだわりポイントを教えてください。 「商店街とスーパーで買ったご飯を食べる夕子は、久しぶりにレトルト以外の手料理に近い食べ物を口に運び、おいしい幸せを感じるのですが、それも束の間…夕子が抱える過去はかさぶたのように染みついています。そんな3話のポイントは、夕子の生活感が垣間見えるところです。ほぼ身一つで引っ越してきたので机もなく、段ボールで机を作ったり、その机で食事したりなど…。食べることや食べ物を見たり匂いを感じたりすることが好きで、アニメや漫画で食事の準備をしてご飯を食べる一連の動作が出てくるとワクワクします。そのワクワクを自分も漫画で描きたいなと思っていたので、食事のシーンはお気に入りです。2ページ目の惣菜イラストは、過去の夕子が食べていたカップ麺やレトルトとは真逆の、栄養が偏らないかつ手作り感が伝わるような内容を考えました。自分の中で家庭観のある手作り料理で一番に思い浮かぶのが肉じゃがなので、惣菜の一つに描いています」 最後に「日暮夕子は今日も想い出を盗る」のストーリーを考える際にこだわった点や悩んだところ、参考にしたことなどを尋ねると、「抑揚のあるストーリーというよりは、ゆっくりとした時間が流れるような内容にしたいなと考えていました。その中にクスッと笑えるような場面や、表現を入れたかったので、夕子の表情にはこだわりました。驚く場面などはデフォルメのイラストに変えて思いっきり驚いた表情にさせたり、お笑いとまではいかないけれどボケを入れてみたりなど…。ちびまる子ちゃんの漫画が好きで幼いころよく読んでいたのですが、クスッと笑ってしまうシーンがけっこうあって、特に顔芸など…そういったところを参考にさせていただきました。また、自分が四季折々の景色が好きなので、物語の中にも四季の変化を感じられるような設定作りにこだわりました。1話は夏の終わりと秋の始まりの境目あたりを意識し、そこから徐々に秋に染まり、9話では冷たい空気が流れ込む冬の始まりを演出しています。ぜひ、漫画の中で四季の変化も楽しんでいただけたらうれしいです」と話してくれた。 取材協力:せきやよい(@sk_yayoi3)