脚本家・矢島弘一が考える野球の魅力とは? 『バントマン』に込めた“人生”とのシンクロ
鈴木伸之だからこそ描けた熱いドラマ
――演じる鈴木伸之さんについては、どのような印象をお持ちでしょう? 矢島:鈴木さんのお芝居はもちろん知っていましたし、大翔の熱さに合うと思っていました。鈴木さんは体育会系のまっすぐな熱さを持っていますよね。鈴木さんが演じるからこそ、熱いドラマが書けたと思います。 ――第1話でライデル・マルティネス選手や村上宗隆選手などの野球選手の実名がドラマの中でどんどん出てくるのですが、今後プロ野球関係者の登場はありますか? 矢島:言える範囲では、山本昌さんが登場します。 ――矢島さんはご自身のプロフィールの最初に「野球好き」と書くほどの野球好きですが、野球の魅力とは一体何だとお考えですか? 矢島:うーん、野球はもう人生の一部だからなぁ……(しばし悩む)。野球は1球1球に意味が詰まっているんですよね。先日、日本ハムの伊藤大海投手が135球で完封しましたが、1球1球にそれぞれ違う意図と意味があると思うんです。ほかにもあらゆるプレーに意図と意味がある。ファールにもストライク、ボールにも意図があって、意味が生まれてくる。自分がやっている舞台の脚本や演出にも、すべて意図があって意味があります。人生にだって、日々生きていることにそれぞれ意図と意味があるはずです。野球と人生はそういう部分がつながっているから、魅力的なんじゃないでしょうか。 ――矢島さんの書く作品には、社会的な立場が弱い人にスポットを当てるものが多いと思います。それはどのような動機があるのでしょう? 矢島:野球の例えになってしまうのですが、昔から4番バッターより2番バッターや8番バッターが好きだったんです。ヤクルトなら土橋(勝征)が好きだったし、阪神ならバースより平田(勝男)が好きでした(笑)。西武でも清原(和博)、秋山(幸二)よりも平野(謙)、辻(発彦)が好きだったんです。裏で努力している人、裏でみんなを支えている人が好きだったので、自分で脚本を書くときも、わかりやすいスーパースターより「実はこの人が主人公になるべきなんじゃないか」と思う人を主人公に選んできました。それが自分にとって書きやすかったのだと思いますし、やがて自分のスタイルになっていったのだと思います。 ――それが社会の裏側で歯を食いしばって頑張っている人たちへの視線につながっているんですね。矢島さんの作品は、かなりシビアな現実を描く一方で、ほんのりとした希望も描いてくれています。 矢島:「そんなにうまくいくか!」と思う部分もありますが、作品を観た人が1センチでも前に出られるような気持ちになってくれればいいと思っています。あと、弱い人が弱いままで生きられる社会になればいいと思っているので、そこは心がけています。今は生きているだけで大変な時代ですが、苦しい中でも同じような目線で見れて、明日はちょっと頑張って学校や会社に行こうという気分になれればいいなと思って脚本を書いています。『バントマン』もそういう作品になっていますので、ぜひご覧ください。
大山くまお