久本雅美 恩人の演出家とラブコールもらった芸人への気持ちは?
ただ、そこにはもう一つ奥にテーマがあって「役者も作家性がないとダメだ」ということなんです。台本に沿ってやるというのももちろん大切なことなんですけど、自分で無から有を生み出す。そこの力がないと生き残っていけないと。 これを若い時に教えてもらったというのは、感謝しかないです。「WAHAHA本舗」での舞台はもちろんのこと、他のお芝居に呼んでいただいた時にも、そして、テレビでバラエティーに出していただく時でも、メチャメチャ役立っています。 たとえば、私は松竹新喜劇さんにも大変お世話になっているんですけど、歴史ある劇団さんで恐縮ながら、公演に出していただいたら、私は毎日お芝居の中で違うことをやるんです。いや、別に何もかもぶち壊しにするわけではないんですよ(笑)。最低限お芝居の筋を邪魔しない中で、自分で考えて何かしら新しい流れを入れる。すると、共演者の皆さんもすごく喜んでくださるし、非常に盛り上がってもらえるんです。 バラエティーでも、この作家性という部分が「何か予想外のことが起こったとしても、それはその時に考えて動けばいい」という“心の軸”みたいなことにつながっているなと。仮に司会をさせてもらっていて、もし何もなかったとしても、その思いを持っているだけで、堂々と強く立っていられると言いますか。外に出れば出るほど、つくづく良い育て方をしてもらっていたんだなと痛感します。
ま、とはいえ、ひどい時も山ほどありますけどね(笑)。「WAHAHA本舗」では、公演ごとに必ず私一人のシーンがあるんです。ここも、いい意味で?ほったらかし。いつだったかな、ある公演で「さすがに、今回ばかりはアイデアが出てこない。どうしようか…」となってると、喰さんが一言「フレディ・マーキュリー」と。スタッフさんも慣れたもんで「クイーン」の曲がかかって、私が出て行ってとりあえず勢いだけでワーッとやったら、喰さんが「それ!!」と。ホンマに「それ!!」やったんかと(笑)。「なんやねん!!」ということもたくさんありますけどね。 あと、喰さんと一緒にやりたいと思った要因、もう一つあるんですけどね…。それは、喰さんが“私を面白いと信じてくださった”ということ。これは、とてつもなく大きかったです。お芝居を始めた頃からずっとそうだったんですけど、勢いと情熱はあるけど、力はない。飲み屋さんでは好き勝手できるけど、舞台では面白くない。ずっと、そんな状態だったんです。 役者としてやっていけるのか。やっていきたい。でも、まるでできない。向いてないのか。でも、でも、やりたい…。そんな迷いの中で、喰さんはずっと同じことを言ってくれてたんです。 「久本の日常は非日常。そのまま舞台に出したらいい。本当に面白いんだから、大丈夫」と。 これを言い続けてくれた。信じぬいてくれた。心が折れそうな時も、ぶれそうなときも、常に「面白い」と言ってくれたんです。支えになりました。