なぜ「欧米から経済制裁」のロシア経済がV字回復しているのか…中国にすべてを握られたプーチン政権の末路
■経済をV字回復させた穏健な技術官僚 3月のロシア大統領選で圧勝したプーチン大統領は、5月7日の就任式で5期目に入る。大統領は就任後、新内閣を組閣するが、手堅い経済運営を進めるミシュスチン首相は続投し、小幅改造にとどまりそうだ。 【この記事の画像を見る】 ミシュスチン首相をめぐっては、中国が高く評価し、続投をロシア側に求めたとの情報がある。同首相はウクライナ侵攻には沈黙し、戦時下の経済政策に没頭してきた。 経済の立て直しに向け静かな国際環境を望む中国は、冒険主義のプーチン氏より、穏健なテクノクラート(技術官僚)であるミシュスチン首相の影響力拡大を望んでいる形跡がある。 ■習近平主席との会談はプーチン氏よりも多い ミシュスチン首相は昨年、習近平国家主席と3回会談している。 昨年3月に訪露した習主席はロシア政府庁舎を訪れ、ミシュスチン首相と個別に会談。「中国は複雑な国際環境の中でも、健全な成長の勢いを維持したい」とし、中露の貿易経済関係拡大、エネルギー協力、サプライチェーンの安定を訴えた。 5月にはミシュスチン首相が中国を公式訪問。習主席は人民大会堂で会談し、中国の「一帯一路」とロシアが主導する「ユーラシア経済同盟」の相乗効果を高め、より開かれた地域市場と安定したグローバル協力を進めたいと述べた。 首相は12月にも訪中。習主席は会談で、「中国経済には強力な回復力、潜在力、余力がある。質の高い発展と対外開放を進め、ロシアなどにも機会を提供する」と語った。 中国側の発表では、習主席はウクライナ戦争には言及せず、必ず「産業とサプライチェーンの安全・安定」の重要性を強調したという。「複雑な国際環境」という表現で、暗にロシアのウクライナ侵攻が中国の経済発展の妨げになると苦言を呈した。習主席は昨年、プーチン大統領と2度会談したが、首相との会談回数のほうが多かった。
■中国が格下のロシア政府人事に介入している クレムリンの内部情報に詳しいとされる謎のブロガー、「SVR(対外情報庁)将軍」は今年4月4日、ロシアのSNS「テレグラム」で、「中国はロシア指導部に対し、ミシュスチン首相を続投させるよう強く要請した。中国指導部は、他の誰よりも現首相と仕事をすることを望んでいる」と伝えた。 3月20日の投稿では、「中国指導部はミシュスチン政府の舵取りを評価している。習近平はミシュスチンと個人的に連絡を取り、発言などを好感している」「中国は格下のロシア指導部に対し、決定を押し付けることができる」と指摘した。 1月23日には、「在ロシア中国大使館がロシア指導部の意思決定の中に入りつつある。中国はロシア指導部に対し、人事を事前に中国側に報告するか、調整するよう求めている」と書いた。 これが事実なら、政府人事介入により、プーチン氏が最も重視する国家主権が中国によって脅かされていることになる。 習、ミシュスチン両者の蜜月関係については、ウクライナのテレビ局「24TV」が昨年5月、「習近平指導部はミシュスチンを敬愛し、プーチンの後継者になることを望んでいる」としながら、「プーチンは側近を恐れ、誰も信用しない。後継者の登場を許さないだろう」と分析していた。 ■軍需産業をフル稼働、国内経済を好転させた 経済制裁下にあるロシア経済をV字回復させたミシュスチン首相とは、一体何者なのか。 ミシュスチン首相は1966年、モスクワ郊外に生まれ、大学院でシステム工学の学位を取得。長年、税務局に勤務し、徴税システムの効率化を進め、税務局長官時代は税収のデジタル化に貢献。無名ながら、2020年にプーチン大統領によって首相に抜擢された。 22年のウクライナ侵攻後は、戦時経済の運営委員会委員長も兼務し、軍需産業をフル稼働させ、中央銀行と連携してマクロ経済を好転させた。この間、ウクライナ戦争の是非について発言することもなく、国民生活の安定に努めた。 世論調査では、メドベージェフ前首相の支持率は後半、30%前後だったが、ミシュスチン首相の支持率は70%台と高い。