人口のおよそ14%「境界知能」は知的障害と何が違うのか…複雑な内容の文書を扱う活動などでは強いストレスを感じることも
境界知能は問題になり得る
境界知能はDSMやICDで、病気・障害とは位置付けられていません。境界知能は診断名ではないのです。 DSMの最新版では、境界知能は「臨床的関与の対象となることのある他の状態」という項目のなかで解説されています。これはつまり、病気や障害ではないけれど、場合によっては診療の対象になるということです。 境界知能の人は基本的には、明らかな不適応を起こすことなく、社会生活を送っていけると想定されています。しかし、心理的な負荷がかかった場合や、他の発達障害との重なりなどによって、精神医学的な問題が起きる可能性があり、いわばハイリスク群として位置付けられているのです。 実際に、境界知能の状態にある人たちは、子どものときも、大人になってからも、一定の知的機能が要求されるような活動に取り組むとき、困難を感じることがあります。例えば複雑な内容の文書を扱う活動などでは、強いストレスを感じるかもしれません。 本人の知的機能と、周囲から要求される知的機能の間にギャップがあるときには、生活上の支障が出る可能性があります。境界知能は、そのような可能性が想定されるハイリスクな状態だということです。
境界知能でも、生活上の支障があれば支援を受ける
境界知能に自閉スペクトラム症やADHDが併存している場合、知的機能に関連する困難だけでなく、対人関係や集中力に関連する困難も生じてしまうことがあります。その結果として、生活上の支障が出てくる場合もあります。その場合はIQの数値だけにとらわれず、総合的な診断を行わなければなりません。 私は以前、横浜市の医療機関に勤めていましたが、当時、横浜では医療と行政が連携し、そのようなケースを軽度知的障害と同等の状態だとみなして、療育手帳を交付することが行われていました。 正常知能の人に手帳が交付されるようなことはありませんでしたが、例えば偏差IQが80くらいの場合でも軽度知的障害と判定され、早期支援につながることがありました。これは医学的には妥当な判断だと言えます。 横浜市以外にも、そのように柔軟な判断を行っている地域があります。すでに述べたように、ICDやDSMでもIQは目安に過ぎないことが示されていますから、今後はIQにとらわれない判定が一般的になっていくのではないでしょうか。 イラスト/書籍『知的障害と発達障害の子どもたち』より 写真/shutterstock