【エリザベス女王杯】スタニングローズ復活V!人馬ともに待ちわびた2年ぶりの美酒
第49回エリザベス女王杯回顧
もしかしたら、この日のスタニングローズはいつも以上に闘志を燃やしていたのかもしれない。「私の実力はこんなものではない」と――。 【レース映像】エリザベス女王杯(GI)|スタニングローズ(C.デムーロ) 出走17頭中、10頭が重賞勝ち馬とはいえGⅠ馬はたった2頭だった今年のエリザベス女王杯。 その中の1頭であるスタニングローズは本来であれば、上位人気に推されてもいいはず。実際に昨年のホープフルS勝ち馬のレガレイラは単勝オッズ1.9倍という1番人気という支持を受けた。 しかし、秋華賞馬スタニングローズの15時時点での単勝オッズは13倍で同率の5番人気。 最終オッズは3番人気まで支持を集めたが、それでもオッズはギリギリ10倍を切るレベルの9.5倍。GⅠホースであることを考えると、少々ナメられたと言わざるを得ないだろう。 ただ、彼女の近走を見れば人気を下げるのも無理はなかった。スターズオンアースの三冠制覇を阻み、勝利を収めた秋華賞から約2年、スタニングローズが勝ち星どころか馬券圏内に入ることは一度もなかった。 脚の故障から復帰した今年も大阪杯で8着、ヴィクトリアマイルで9着と結果を残せず、牝馬限定戦でGI馬は他にいないというメンバー構成だったクイーンSでは14頭中の9番人気まで評価を下げ、しかも6着に完敗。 いくらGIホースとはいえ、2年も馬券圏内から遠ざかっている状況ではとても買えないというのがファンの答えだったのだろうか。 思えば彼女の祖母ローズバドをはじめとした薔薇一族のGI好走は3歳までで、4歳以降はまるで枯れてしまったかのように低迷することが多かった。 それだけにスタニングローズも……と、不安に感じたファンも少なくないだろう。そうした声が単勝オッズに現れた。 だが、パドックに現れたスタニングローズは「血筋なんか関係ない」と言わんばかりに堂々たる周回を見せた。 さらにこのところはどこかとろんとした表情だったが、今日は瞳にも生気がある。まるで2年前の牝馬クラシック戦線を走っているころのような闘志が彼女の全身から感じられるほどだった。 レース直前は雲が目立ち始めたが、馬場は2年前とは異なり良馬場というコンディションで行われた今年のエリザベス女王杯。 堅い馬場でスピードが出やすいため、末脚に自信のある馬たちに有利になると考えられていたが、ゲートが開くと17頭は出遅れることなく一斉にスタートを切った。 スタンドにいるファンの大歓声に包まれながら最初に先頭に立ったのは中山牝馬S勝ち馬のコンクシェル。 これを昨年の3着馬ハーパーと新潟記念を制したシンリョクカが追いかける形に。いつもよりもいいスタートを切れたことで、レガレイラも中団に付けて末脚を溜めるように1コーナーを回っていった。 この時、スタニングローズはと言うとちょうど4番手の位置取り。先行する3頭を見ながら、後ろにいるレガレイラよりもリードを保つという形に。 そんなスタニングローズについていく形で上がり馬のホールネスもここで流れに乗っていった。 1000mの通過タイムが59秒6と平均ペースで流れていったものの、そこから残り600mにさしかかるまでの時計がすべて1ハロン12秒台とかなり落ち着いた流れに。 逃げるコンクシェルが1~2馬身近く離して逃げ、シンリョクカとハーパーが2番手集団に付けるという序列は変わらないまま3コーナーの上り坂に入っていった。 だが、このゆったりとした流れにいち早く反応したのはスタニングローズの鞍上、クリスチャン・デムーロ。 坂を上り切り、下り始めたところで前を捕らえるように追いかけだすと、前にいたシンリョクカ、ハーパーらと並んでいった。 レース後、クリスチャン・デムーロは「前のグループの後ろで手応えよく回れた」と振り返ったが、GIらしからぬゆったりとした流れにスタニングローズが自ら反応しているようにも見えた。 その姿はまるで「私の力はこんなものではない!」と言わんばかりだった。 迎えた直線、コンクシェルを捕らえて先頭に立ったのはなんとスタニングローズだった。 先行していた馬たちが内で粘りこみを図り、馬群をこじ開けるかのようにレガレイラが延びてくる中、スタニングローズとクリスチャン・デムーロは「受けて立つ」と言わんばかりに早々と先頭に立ち、リードを広げていった。 残り200m過ぎ、スタニングローズが後続に2馬身ほどのリードを取って完全に抜け出した。 その姿は道悪馬場に苦しみ、全く伸びてこられなかった2年前とは全く異なる堂々たるもので、まさに女王そのもの。往年の力を取り戻したスタニングローズにとって、外から伸びてくるラヴェルも内から迫ってくるホールネスも問題にはならなかった。 そして、スタニングローズとクリスチャン・デムーロは迫りくるラヴェルに2馬身差を付けて先頭でゴール。 ゴール直前、鞍上が左手でこぶしを握ってガッツポーズを作るほどの余裕があったほどの完勝だった。かつての女王スタニングローズは堂々たる勝ちっぷりで2年ぶりの戴冠を果たし、女王の座に返り咲いた。 スタニングローズ同様、2年ぶりに日本のGIを制したクリスチャン・デムーロはレース後のインタビューで「GIを勝つために日本にやってきた」と高らかに語ったが……そのパートナーとして2年間勝ち星から遠ざかっていたスタニングローズを選び、最高の結果を手にした。 ともに2年ぶりの栄冠を掴んだスタニングローズとクリスチャン・デムーロ。新しいタイトルを手にした人馬はこれからどんなレースを我々に見せてくれるのだろうか。 ■文/福嶌弘
テレ東スポーツ