【虎に翼】ついにドラマは「原爆裁判」に、主人公のモデル・三淵嘉子さんはこの歴的裁判をどうさばいたのか
(放送コラムニスト:高堀冬彦) ■ 主人公・寅子、新潟から東京へ異動 朝ドラことNHK連続テレビ小説『虎に翼』は12日放送から第20週に入る。計30週の作品なので、いよいよ終盤である。 【写真】『虎に翼』主人公・寅子のモデルとなった三淵嘉子さん。原爆裁判の担当裁判官となった 伊藤沙莉(30)扮する主人公・佐田寅子は、新潟地裁三条支部から東京地裁民事24部に異動となった。時代設定は1955年だ。 三条支部には3年いた。当初は老獪な弁護士・杉田太郎(高橋克実)に手を焼いたものの、最後は分かり合えた。いつものことながら、寅子が相手を色眼鏡で見ないで付き合うからだろう。 やり残したこともある。土地の有力者の娘・森口美佐江(片岡凜)の更正だ。美佐江は他人を操って犯罪をやらせていたようだが、確たる証拠がない。本人も売春容疑で補導されたものの、これも犯行への関与を否認した。これでは家庭裁判所での審判にかけられなかった。 そもそも審判にかけても更正は難しかっただろう。売春事件後の美佐江は寅子に向かって「とんだ災難でした」(第92回)と悪びれずに言い、まるで他人事だった。
美佐江は善悪の価値基準が狂っている。寅子に対し「どうして悪い人から者を盗んではいけないのか 自分の体を好きに使ってはいけないのか。どうして人を殺したらいけないのか」(同)と真顔で言った。おそらくサイコパス(人格障害の一種で他人との共感性や罪悪感などが欠けている)なのだろう。 美佐江は東京大に入った。家柄が良く頭脳明晰だから大人たちは彼女のウソを信じた。学校の成績と道徳心は無関係なのだが、いつの時代も高学歴者は信用を得やすい。 一方で現在は笹山(田中要次)の寿司屋で働く元戦災孤児の道男(和田庵)はなかなか他人に信頼されなかった。脚本を書いている吉田恵里香氏(36)による皮肉だろう。世間は人間性より肩書きや生育歴、経歴を重んじがちだ。 ■ 歴史的裁判となる「原爆裁判」 寅子の東京地裁での上司は汐見圭(平埜生成)。寅子の明律大法学部の同級生であるチェ・ヒャンスク(ハ・ヨンス)の夫だ。気の良い人物である。 汐見と寅子は大きな裁判を受け持つ。広島と長崎の被爆者が国に損害賠償を求めた民事訴訟である。原告の代理人は戦前、寅子が弁護士として働いた雲野法律事務所の雲野六郎(塚地武雅)だった。正義感の強い社会派弁護士だから、納得である。