時代と“逆行” クラブ史上最高のシーズンを戦い抜いた指揮官のストイックな働き方
【スポニチ蹴球部コラム Footひと息】何げないひと言にこそ本音が隠れているときがある。12月8日のリーグ最終節に、神戸が連覇を達成。天皇杯を合わせて2冠というクラブ史上最高のシーズンを締めくくった。その日の試合後、取材に応じた吉田孝行監督(47)がポツリと口にした言葉が印象的だった。 「今年の疲労はすごかったよ。9、10、11月の連戦はマジできつかったです。もちろん、選手もきついけど、まだうまくターンオーバーもできていたじゃないですか。でもスタッフはターンオーバーできないからね」 9月中旬からはリーグ戦だけでなく、天皇杯やアジア・チャンピオンズリーグエリート(ACLE)も同時進行で戦った。特に敵地のACLEブリラム戦(タイ)から敵地のリーグ新潟戦は中4日の過酷な日程。日本―タイ(約4600キロ)、そして神戸―新潟(約630キロ)の移動距離を計算してみてもざっと1万460キロになる。 「とにかく分析、分析、分析…。2、3試合先まで見てやってきた」。肉体と頭脳をすり減らす日々。一方でこうも言う。「妥協するのは簡単。ただ、性格的にそういうのじゃないので。これでもか、これでもかと、いろいろなパターンを考える」。オフの日にもカフェにノートパソコンを持参し、次戦の戦略を練った。メンバー選考も納得するまで悩み抜いた。 19年4月から「働き方改革」が施行された。有休消化を義務付け、違反した企業には罰金を科す可能性があるという強制的かつ不思議な施策で、今では週休3日制の導入まで言われている。サッカークラブは一般企業ではないが、とことん突き詰めた吉田監督の生き方は時代と“逆行”しているようにも映る。 もちろん、心身の安定のためや家族との時間なども含めて、十分な休養を取る必要性は感じている。それが仕事の効率をアップさせる時があることも理解している。ただ、Jリーグの先頭に立ち、Jリーグを代表してアジアの戦いに挑んだ24年シーズン。疲れ切った吉田監督の横顔はまぶしく見えた。 (飯間 健)