「賃上げ率」24年ぶり高水準の「3.2%」なのに「実質賃金」は18ヵ月連続マイナス…その「深刻な要因」とは
厚生労働省が11月28日に発表した「賃金引上げ等の実態に関する調査」の結果によると、1人あたりの平均賃金の引き上げ率が3.2%と、1999年以降で最も高い数値を記録しました。しかし、「毎月勤労統計調査」(9月分確定値)によると「実質賃金」は18ヵ月連続で前年度比マイナスとなっています。どのような要因が考えられるのか、解説します。 【早見表】年収別「会社員の手取り額」
実質賃金とは
まず、実質賃金とは何か、おさらいしておきましょう。 実質賃金は、労働者が実際に受け取った給与である「名目賃金」の額から、物価上昇分を差し引いた数値です。給与が上がっても、物価の上昇幅がそれを上回れば、実質的には給与が下がったのと同じことになります。 つまり、給与が上がって、かつ実質賃金も上昇するには、以下の2つの要素が必要です。 ・給与が上がる ・給与の上昇幅が物価の上昇幅を上回る 実質賃金指数の計算式は以下の通りです。 【実質賃金指数の計算式】 実質賃金指数=名目賃金÷消費者物価指数×100 消費者物価指数(CPI)とは、計582品目の商品・サービスの価格(小売価格)の動きを計測するもので、総務省が毎月発表しています。 実質賃金が減少しているということは、賃金の上昇が物価上昇に追いつかず、物・サービスの購買能力が低下して貧しくなっているということを意味します。 実質賃金は厚生労働者が行う「毎月勤労統計調査」で毎月算出され、前々月分が発表されます。2022年4月以降、2023年9月まで17ヵ月連続でマイナスを記録しています。この間、消費者物価指数は一貫して前年同月比プラスとなっています([図表]参照)。
実質賃金はなぜ下がっているのか
なぜ、日本では実質賃金が下がり続けているのでしょうか。前述したように、実質賃金の低下は、給与の上昇幅が、物価の上昇に追いつかないことによって起こります。 「賃金引上げ等の実態に関する調査」の結果によれば、2023年中に賃金の改定を実施した企業、または予定していて額も決定している企業において、賃金の改定の決定にあたり最も重視した要素の上位は以下の通りです。 ・1位:企業の業績(36.0%)※2022年度は40.0% ・2位:労働力の確保・定着(16.1%)※2022年度は11.9% ・3位:雇用の維持(11.6%)※2022年度は10.7% ・4位:物価の動向(7.9%)※2022年度は1.3% このうち、1位「企業の業績」は、2022年度は40.0%であったのが、36.0%に減少しています。これに対し、2位「労働力の確保・定着」は11.9%から16.1%へと上昇、4位の「物価の動向」は1.3%から7.9%へと大幅に上昇しています。 企業の業績の向上を理由とする賃上げを行った企業は前年度よりも減少しています。その反面、働き手を確保するため、あるいは物価上昇から従業員の生活を守るため、賃上げに踏み切った企業が増加しています。 つまり、賃上げ率が24年ぶりの高水準に達したとはいっても、それは、企業の業績の向上を反映して賃上げした企業ばかりではなく、外的要因からやむを得ず賃上げをした企業も多いとみられるのです。 これに対し、物価は高騰しています。現在の物価高騰には主に2つの要因が寄与しています。 第一の要因は、2022年から続くロシアのウクライナ侵攻により、全世界的にエネルギー価格・食料価格が高騰していることです。 第二の要因は、昨今の記録的な「円安」です。日本が超低金利政策をとっているのに対し、諸外国が相次いで「利上げ」を行ってきているので、金利の低い円が売られて円が下落しているのです。 これらが重なり、記録的な物価高騰につながっています。そして、賃金の上昇が、物価高騰に追いついていないということです。 ロシアのウクライナ侵攻も、円安も、一朝一夕には解決する問題ではありません。ウクライナ情勢は解決の見通しが立っておらず、円安の要因となっている日本の超低金利政策も、もし利上げに転じれば、タイミングによっては日本経済の回復を阻害するおそれがあります。 物価の高騰は国民生活に重大なダメージを与え続けており、実質賃金を上昇させること、すなわち、賃金上昇が物価上昇に見合ったものにすることはきわめて重大な課題であるといえます。しかし、日本経済を回復基調に乗せるためという名目で行われている金融政策が、物価高騰の原因となる円安を招いているという現実があります。 この局面をどのようにして打開するのか。政府にとっても、企業・一般国民にとっても、厳しい局面が続くと考えられます。
THE GOLD ONLINE編集部