ミネベアミツミ「瀬戸際のスマホ部品」挽回の裏側、かつての稼ぎ頭が携帯電話から車載へ構造転換できたワケ
だが、2020年からは基本的に有機ELで統一。現在は廉価版と旧型でのみ液晶を使用している。ミネベアミツミのスマホ向けバックライト事業の売上高は、全盛期の10分の1程度まで落ち込んでしまった。 ■車載用途で引き合い増加 このまま、かつての稼ぎ頭は消滅してしまうのか――。そこに待ったをかけたのが、車載向けの新たな需要だった。EV(電気自動車)の普及や車内電装の増加に伴い、計器類やルームミラーなどに液晶ディスプレーの採用が広がり、バックライトの引き合いが強くなってきたのだ。
実は車載向けバックライトには、2007年から参入していた。しかしスマホ向けの生産や開発の対応に追われて、十分に力を割けずにいた。スマホ向け需要が頭打ちとなってから強化を試みたものの、新型コロナウイルス禍に直面。新車生産台数がサプライチェーンの混乱や半導体不足で減少する中、同社事業も伸び悩んだ。 「コロナ禍の苦しい時期をしのげたのは、諦めずにスマホ向けを延命したから」(志村氏)。近年は、欧米の高級車向けに部品を納めるティア1からの受注が増えている。各社は豪華で高付加価値な車載モジュールを競い合うように開発しており、結果としてナビの画面が大きくなったり、ディスプレーの数が増えたりしている。
■問われる真価 同社にとってLEDバックライトは、1990年代後半から育ててきた事業だ。当初は画面を前から照らすフロントライトに注力したが普及に伸び悩み、2001年頃にバックライトへ参入。国内メーカーでは最後発だったが、海外生産を業界でいち早く始めて台頭し、高性能なバックライトを必要とするスマホの登場で飛躍した。 需要の増加が見込まれるEV向けのバックライトでは、明るさと耐久性を要求される一方、バッテリーで動くため電力消費を極力抑える必要がある。中国や台湾、韓国の競合メーカーとの競争では、スマホ向けで培った小型化の技術を生かしてコストと品質の両面で差別化を目指す。
一度は危機に瀕したバックライト事業だが、売却・分離でなく延命・復活の道を選んだ。それが正しかったのか、車載という新分野で真価が問われている。
石川 陽一 :東洋経済 記者