【心理的安全性の高いフェスとは】ステージ上で自分のことを語り出す人続出、「18歳の成人式」が会場にかけた"魔法"
(篠原 匡:編集者・ジャーナリスト、蛙企画代表) 3月22日の11時過ぎ。東京・恵比寿の恵比寿ザ・ガーデンホールに足を運ぶと、既に大勢の若者で賑わっていた。肌を刺すような北風が吹き付ける少し寒い日だったが、開場を待ちわびるかのように、受付の前で列を作っている。地方から来たのか、スーツケースを転がしている人も少なくない。 【写真】ハッシャダイソーシャルを立ち上げた勝山恵一と三浦宗一郎。社会起業家として注目を集める28歳の二人。 そして、受付が始まった11時30分。ゲートが開くのを待ち構えていたように吸い込まれる若者たちを待ち構えていたのは、「おめでとう!!」という祝福のシャワー。想像もしなかった一言に、大勢の若者がはにかみ、笑顔を見せながら階段を上がっていく。 これから始まるのは「CHOOSE YOUR LIFE FES #18歳の成人式(以下、18歳の成人式)」。一般社団法人、ハッシャダイソーシャルが主催する、18歳の新成人に向けたフェスである。 2022年4月に引き下げられた成年年齢。ただ、「二十歳を祝う会」のように、従来のように20歳のタイミングでイベントを開く自治体も多く、新成人を祝う場が失われている。ならば、オレたちが祝おうと、ハッシャダイソーシャルが始めたイベントだ。 今回は2023年3月に続く2回目の開催。47都道府県から500人近い18歳が参加した。参加費は無料。地域によって異なるが、上限1万5000円までの交通費補助もあり、フェスに応募した人の数は定員の6.4倍、およそ3200人に達した。イベントの費用は、クラウドファンディングである。 このフェスを開催したハッシャダイソーシャルは、全国の高校や児童養護施設、少年院などを回り、キャリア相談やキャリア支援を無償で提供している一般社団法人。行き先々の学校や施設で彼らが繰り返し語っているのは「Choose Your Life」。自分で自分の人生を選択するということの重要性だ。
■ 18歳に向けた“人生のお守り” 誰もが気づいているように、人生における選択肢は平等ではない。学歴、勤務先、雇用形態、家庭の経済状況、性別、居住地、所属しているコミュニティなどによって、目の前に現れる機会は大きく異なる。 こういった「選択格差」の影響をとりわけ受けるのが、若年層である。幼少期から学生時代にかけて何を学び、何を体験したのかということは、その後の人生に大きな影響を与える。その機会が多様であればあるほど、人生における選択肢は広がり、人生は豊かなものになる。 ところが、厳しい状況に置かれている若者は、教育や体験、出会いなどの機会が限られている。ハッシャダイソーシャルは、そういう若者に選択と自己決定の重要性を説くとともに、不安や悩みを抱える若者に寄り添い、彼らの可能性を解き放つ。 この日、ザ・ガーデンホールに集まった18歳もそうだ。 就職や進学など進路はそれぞれに異なるが、多くの人にとって、18歳は大人として人生を踏み出す第一歩。未来への希望と不安がない交ぜになった、複雑な感情を抱えている。「18歳の成人式」は、そんな18歳に、記憶として残るような“人生のお守り”を与えるために企画されたものだ。 大人になれば、仕事や人間関係で心が折れそうになることは幾度となくある。その時に踏みとどまり、新たな一歩を歩めるかどうか。それを左右する一つは、誰かに支えられている、応援してもらえているという感覚だろう。 「僕たちのために、全力で応援してくれた大人たちがいた」というその記憶が、人生のお守りになる。ハッシャダイソーシャルはそう考えて、このフェスを作り上げた。 事実、13時に始まった「18歳の成人式」の圧倒的な熱量と優しさは、間違いなく参加者の脳裏に刻み込まれたはずだ。