「ランナーに引退はないですから」フルマラソン通算50勝の川内優輝が「走り続ける本当の理由」
「反骨心が原動力です。若い時はお金をもらって走っている実業団の選手には負けたくないと思っていて……その気持ちを大事にして走ってきました」 【画像】祝・フルマラソン通算50勝達成記念インタビュー! 川内優輝「素顔写真」 川内優輝(36)の名を一躍、有名にしたのが’11年の東京マラソンだった。埼玉県庁で公務員として働きながら、全国のマラソン大会で優勝を積み重ねる「公務員ランナー」が世界陸上の参加標準記録を突破。3位に入賞したことで、マスコミが勤務先に殺到する騒ぎとなった。 アマチュアながら世界陸上へ3度出場するなど最強市民ランナーとしての地位を確立した後、’19年にプロ転向。昨年12月17日のみえ松阪マラソンで優勝し、フルマラソン通算50勝という快挙を成し遂げた。 「自分がレースで争う選手はたいてい箱根駅伝の強豪校から、ホンダ、富士通といった名門実業団に進んでいる。一方で、自分は強豪でもなんでもない学習院大学から埼玉県庁……変な経歴だと思っています(笑)。それでも120回近く2時間20分を切ることができて、ギネス世界記録にも認定してもらえました」 昨年10月に行われたパリ五輪代表選考レース・マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)では、スタートと同時に飛び出して独走。最終的には4位に終わったが、35㎞を超えるまでトップの座を守り続け、再び注目を浴びた。惜しくもパリ五輪日本代表の座は逃したものの、健在ぶりを見せつけている。 「経験があの走りを可能にしてくれたと思っています。レース当日は激しい雨でしたが、大雨のフルマラソンを経験しているランナーって、実はあまりいないんですよ。体は冷えるし滑るので、他の選手は怖かったはずです。だから僕の飛び出しについてくる勇気がなかなか出なかったんでしょう。自分はあのMGCまでに129回のフルマラソンを走っていて、その中には雨中のレースもたくさんあったから、全然怖くなかった。’18年にボストンマラソンで優勝した時も雨だったので、むしろ得意なコンディションでした。 20代の頃は『レースに出過ぎ』と周りに注意されるほど、毎週のようにレースに出場していました。海外でも30ヵ国で60回以上の真剣勝負をしてきたから、経験と同時に『最初に飛び出す勇気』も得られたんです」 昨年は記録と記憶どちらにも残る走りで復活を印象付けたが、ここ数年でメンタリティにも変化があったという。 「自分がトップとしてマラソン界を引っ張っていく時期はもう終わったと思います。今はむしろ、若い選手に刺激を与えていくことを意識している。MGC2日前の会見では、『私に負けているようでは日本のマラソンは暗黒期に入ると思う』と話しました。これもその意識から出た言葉です。今でも『MGC本番で飛び出した私についてくる選手がいてもよかったのでは』と考えていますから」 「もうトップではない」と言いながら、川内は「ランナーに引退はない」と目を輝かせた。 「記録が出なくなって自分を信じられなくなれば、レースの第一線からは退くでしょう。でも、まだその時期ではありません。試行錯誤を続けながら、生涯現役で走り続けたいと思っています」 ◆大迫選手に勝ちたい! 川内が自分の可能性を信じ続けているのは、いまも成長を続けている実感があるからだ。 「プロに転向した年に和光市(埼玉県)に引っ越して、近くの公園のランニングコースで練習していたら、たまたま実業団チーム『コモディイイダ』に所属する選手の方たちが走っていたんです。何度か顔を合わせて挨拶をするようになってから『チームの練習に参加しませんか』と声がかかった。それまでは一人で走ることが多かったのですが、他の選手と一緒に走ることにしたら……記録が伸びたんです。30歳を超えるとスピードは落ちるものですが、自分は34歳の時に3000mで自己ベストを出しています」 今後の競技生活の目標を聞くと「たくさんあり過ぎて」とはにかみながらも、こう答えた。 「2時間7分27秒の自己ベストを更新して、少しでも多くの大会で優勝することですね。優勝を繰り返していれば、他のレースから招待して頂けるので。そして、7大陸すべてでレースを走りたい。南米と南極大陸を走れば、達成できるんですよ。実は、今年の秋に14日間かけて7大陸でハーフマラソンを走る大会があって、それに誘ってもらっているんです。家族の説得が大変ですが、またとないチャンスなのでぜひ、参加したいと思っています。 あとは、今まで一回も勝っていない大迫傑選手(32)に勝ちたいです! MGCでも最後は7秒差と、もしかしたら勝てるかもと思ったのですが、やっぱり甘くはなかった。もしまた戦うことができたなら気持ちで負けずに、ガチンコ勝負をして勝ちたいです。僕は40歳になっていますけど、3年後の次回MGCで勝てれば最高ですよね。まだまだ叶えたい目標がたくさんあるので、止まってなんかいられません」 どこまでも前向きな川内の走りは、これからも見るものに勇気を与え続けるはずだ。 『FRIDAY』2024年2月16日号より
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