【密着】ヤンチャだった少年が夢を求めてオーストラリアへ サーフボード職人として生きる息子へ届ける母の想い
オーストラリア・ゴールドコースト。ここでサーフボードのシェイパーとして奮闘する熊谷充功(みつのり)さん(47)へ、愛知県で暮らす母・よりこさん(74)が届けたおもいとは―。
世界屈指のサーフボードメーカーで最も重要な工程「シェイプ」を担当
美しい白砂の海岸が約70キロも続き、サーファーたちの聖地ともいわれるゴールドコースト。町の南端・バーレイヘッズエリアにある「DHD Surf」は世界屈指のサーフボードメーカーで、充功さんはここでシェイパーとして働いている。DHDではボスであるダレン・ハンドレーさんがデザインを考え、職人が完全分業制で形にする。勤続18年になる充功さんは「シェイプ」という最も重要な工程を担当。シェイプとは、機械で葉の形にカットされた発泡スチロールのような板をひたすら手作業で削って、反りや湾曲を表現する作業のこと。お客さん1人1人の要望や体格、クセに合わせるため、ミリ単位以下の調整は手の感覚だけが頼りという職人技だ。そんなDHDの優れたボードは、世界チャンピオンに輝くプロサーファーを何人も生み出している。
かつてのヤンチャ坊主が夢を追ってゼロから出発 感銘を受けた父の言葉
28歳のとき、全財産の70万円を握りしめ単身オーストラリアにやって来た充功さん。だがどこも雇ってはくれなかった。そこで暮らしていたシェアハウスの一角にサーフボードの工房を手作り。すると、その熱意あふれる姿を目にしたシェアメイトがDHDに声をかけてくれたという。3か月後、朝6時に突然呼び出された充功さんはぶっつけ本番でテストを受けることに。こうして入社後6年間はひたすらボードを磨く工程ばかり。それでも必死に食らいつき、ゴールドコーストに来て最初の4年間は日本に連絡すらしなかった。 8年前には自身のブランド「KUMA Surfboards」を設立。朝はDHDで働き、帰宅後は自宅に作ったシェイプルームで作業と、1日12時間近くをサーフボード作りに捧げた。そして2020年、世界中のシェイパーが集まるコンテスト「Global Shaper Challenge」で見事、世界一の栄誉を手にした。これを機にKUMAには注文が殺到。多忙な日々をおくる中、それでも早朝と夕方は海に出ている。サーファー歴は26年になるが、新しいボードのアイデアは実際に波に乗らないと決して生まれない。シェイパーにとって波の上で掴んだ感覚こそが最も大切なスキルだという。