クラブ史上最高の買い物。ビタリー・ヤネルトのブレントフォード移籍秘話
文 田島 大 データを用いたスカウティングによる賢い補強でプレミアリーグに定着したブレントフォード。そんな彼らにとって、最も「お買い得」だった選手は誰なのか。 候補は何名もいると思うが、そのうちの1人がMFビタリー・ヤネルト(25歳)だろう。3年前、当時ドイツ2部のボーフムでくすぶっていた選手は、今ではブレントフォードに欠かせない戦力となっているのだ。
クラブで不遇も、年代別代表では活躍
2020年10月、当時イングランド2部に所属していたブレントフォードは、ボーフムからわずか50万ポンドでヤネルトを獲得した。データサイト『Transfermarkt』によると、当時のヤネルトの評価額は60万ユーロ(1億円)。それから3年で、評価額は30倍の2000万ユーロ(30億円)まで高騰した。そんなお得な補強の経緯を、クラブのテクニカルダイレクター(TD)を務めるリー・ダイクス氏がクラブHPで振り返っている。 ヤネルトはU-15世代からドイツ代表の常連で、移籍当時もU-21代表に選ばれる有望株だった。それでも、所属クラブのボーフムでは不遇の時間を過ごしていた。 「僕はボーフムに3年半いたけど、その間に6名も監督が変わり、難しい時期だった」とヤネルトは説明する。「僕自身のパフォーマンスもベストではなく、安定性を欠いていた。1年半で先発10試合という時期もあり、その多くが左SBだった。だから『もっと試合に出ないといけない』と思った。僕は新たな挑戦を必要としていたんだ」 そんな選手に目を付けたのがブレントフォードだった。「我われはU-21ドイツ代表をスカウティングしていた時にヤネルトを見つけたんだ」とダイクスTDは明かす。「U-21代表チームでは常にトップ5に入るパフォーマンスレベルだった。だからこそ、なぜボーフムではレギュラーじゃないのか、我われには理解できなかった」 そこでダイクスは自らドイツまで足を運び、実際にプレーを見るだけでなく、彼を知る人からも彼の人となりを聞くことにした。「私は入念に調べることにした。ドイツを訪れて、彼の行きつけのレストランの店長からも話を聞いた。のちにこのことをヤネルトに伝えたら、彼は怖がっていたよ!」 ダイクスTDが出した結論は、獲得に値するというものだった。「ヤネルトはとても万能で、左SB、左CBのほか、ボランチやセントラルMFでもプレーできることがわかった。ピッチ上では常にボールを要求して存在感を発揮する。そして成熟さもあるし、ボールがない時もサッカーを理解していた。フィジカル面は、イングランド2部やプレミアリーグでも通用するものだった」