今の世界をヘド様だったらどう感じるだろう?三上博史がLIVE版「ヘドウィグ」への思い語る
11月から12月にかけて東京・京都・宮城・福岡で上演される「PARCO PRODUCE 2024『HIROSHI MIKAMI / HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】』」に向け、10月下旬に三上博史の取材会が行われた。 【画像】三上博史(撮影:加藤アラタ、ヘアメイク:赤間賢次郎(KiKi inc.)、スタイリング:勝見宜人(Koa Hole inc.))(他3件) 「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」は、ジョン・キャメロン・ミッチェルが台本・主演、スティーヴン・トラスクが作詞・作曲を担い、1997年にアメリカ・ニューヨークのオフブロードウェイで初演されたロックミュージカル。劇中では、“愛と自由”を得るために性転換手術を受けた際、手術ミスで“怒りの1インチ(アングリーインチ)”が残ってしまったヘドウィグによるライブステージが繰り広げられる。日本では2004年に三上の出演で初演され、その後さまざまな俳優が演じてきたが、日本初演20周年となる今年は、三上の「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」がライブバージョンで復活する。 会見冒頭、本作に対する思いを問われた三上は、一瞬思考したのち、「自分は演劇に向いていないと思い、実は四十で役者稼業を引退しようと思っていたんです」と静かに話し始めた。「でもちょうどその頃、PARCO劇場で寺山修司没後20年公演『青ひげ公の城』(2003年)をやらせていただき、こんなに自由に泳げる場所があるんだ、と演劇に気持ちが傾倒して。その後、当時自分のアパートがあったアメリカの西海岸に帰り、その街で何の予備知識もなく『ヘドウィグ』を観て、非常に音楽が印象的だなと感じたんですね……という話を『青ひげ公』のカンパニーのメンバーに伝えたら、実は日本でも上演しようと思っているところだと。そうしたらなぜか僕のところにその話がやってきまして(笑)、2004年に『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』をやることになったんです」と作品との出会いを振り返る。 初演の手応えについては「自分でも本当に泳ぐように自由にやれて、公演を重ねるごとに客席側の熱が上がっていくことを板の上で感じました」と三上。「それで2年目のお話もいただき、3年目……となったときに身を引きました。正直、大変な作品ですし、少し作品から離れて、ほかの人がやるバージョンも観てみたかったんです。でも今回、日本初演から20周年というタイミングでまたお声がけいただいて、ふと『そういえば最初は音楽が印象的な作品だと感じたんだったな……。であれば、初心に帰って、今回は演奏だけという形も良いのでは』と思って。それで、初演以降付き合いのあるミュージシャンたちに声をかけたところ、ほぼ全員、当時のメンバーが集まってくれることになりました。みんなこの20年の間にそれぞれありましたから、彼らの人生が表現の中にも現れて、きっと面白いことになるはず。深みは増していると思います」と自信をのぞかせた。 「では今回は歌だけで、ヘドウィグを演じるわけではないのでしょうか?」と記者が尋ねると「さあ、そこですよね」とニヤリ。「これまでけっこうサディスティックに活動を続けてきましたから、皆さんが何が観たいのか、何を求めているのか、手に取るようにわかってしまう(笑)。だから“20周年で三上博史がヘドウィグを歌う”というシンプルな形でももちろんいいかもしれないけれど、それだけではきっと許されないだろうと。まだ構想中ではありますが、今言えることは『進化してます!』ということ。初演では“日本のヘドウィグ”をクリエイトしたいという思いで臨みましたが、今や東京も1周回って、今回は歌の中にヘドウィグの世界観を感じてもらえたら」と今公演への思いを語った。 ちなみに今回のライブ版のMCを巡って、三上はジョン・キャメロン・ミッチェルとメールでやり取りがあったことを明かし、「ジョンに『20年後のヘドウィグは、どうなっていると思う?』と聞いてみたら『中西部かどこかで大学の客員教授か何かになって、愛を教えているんじゃないか』と(笑)。その設定は面白いなと思ったんですけど、結局アイデアで終わりました(笑)」とエピソードを披露した。 さらに三上は冒頭の曲「TEAR ME DOWN ティア・ミー・ダウン」に触れ、「ヘドウィグはベルリンの壁がある時代に東ドイツで生まれ、アメリカで愛と自由を得るために性転換手術をして、でもそれが失敗して、売れないロック歌手になります。そして“壁を壊しなさい、男でも女でもないこの私を倒しなさい”(TEAR ME DOWN)と歌うんです。それから20年……今はどうかというと、とりつく島がないくらいの分断があちこちにあって、さらに壁だらけの世の中ですよね。こんな今の状況を、ヘド様だったらきっと壊したいんじゃないかなと思うんです。なので今回は、歌の中で少しでも呼吸がしやすい空間を作れたら良いなと思っています」と意気込みを語った。 最後に観客へのメッセージを求められた三上は「言葉にすると大上段で押し付けがましくなってしまってイヤなんですけど……『とにかく大丈夫だから。綺麗に生きようよ、みんな』と思っていて。自分が本気でやっていれば、思いはちゃんと伝わる。だから人の目を気にせず、綺麗に生きようよと。その思いを、たった3分か5分ではありますが、歌に込めて届けたいです」と力強く語った。 ■ PARCO PRODUCE 2024「HIROSHI MIKAMI / HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】」 2024年11月26日(火)~2024年12月8日(日) 東京都 PARCO劇場 2024年12月14日(土)~2024年12月15日(日) 京都府 京都劇場 2024年12月18日(水) 宮城県 仙台PIT 2024年12月21日(土)~2024年12月22日(日) 福岡県 キャナルシティ劇場 □ スタッフ 作:ジョン・キャメロン・ミッチェル 作詞・作曲:スティーヴン・トラスク 訳詞:青井陽治 / 三上博史 / エミ・エレオノーラ / 近田潔人 □ 出演 三上博史 演奏 ロックバンド「アングリーインチ」:横山英規(Ba.) / エミ・エレオノーラ(Pf. Cho.) / テラシィイ(Gt.) / 中幸一郎(Drs.) / 吉田光(Gt.)